食べ物の好みというのは、地域や文化によって千差万別だ。以前、『イスラムの人たちはブタ肉が食べられなくて可哀相ね』と言ったアホなアイドルがいたらしいが、逆に、オーストラリアのアボリジニなどは『文明人はイモムシが食べられなくて気の毒だ』と…
(作者註:原文を日本語訳したものです)「嗚呼、誰ぞ我が恨みを晴らさん乎。かの傍若無人な奴に一泡吹かす者やあらん」そう嘆きしは、名を伸伸(シンシン)という十歳の少年である。 生まれつき要領が悪く、近所の悪童どもから侮りを受けている。 今日も…
横井は、朝出勤してパソコンを開くのが億劫だった。いつもメールの受信トレイが溢れそうになっているからだ。一応、迷惑メールは自動的に振り分けてくれているのだが、それでもこの状態である。一度でもネット経由でモノを買ったり、カタログを請求した…
美容院のドアを開けた途端、西城の足元に何か茶色いものがまとわりついた。驚いて下を見ると、モコモコした毛の小さな犬だった。「まあ、チャッピー、おやめなさい。お客様が困ってるでしょう」 そう言ったのは、この店のオーナーらしき婦人であった…
そもそも、右って何だろう。試しに、手元の辞書で『右』を引くと『北を向いたとき、東側の方向』と書いてあるが、逆に『東』を引くと『北を向いたとき、右側の方向』となっている。これじゃ、堂々巡りだ。 そういえば、前後左右と東西南北は似ている…
店内のテーブルで今日の売り上げを計算していた坂上は、人の気配にハッとした。「副店長、戸締りお願いしときますね」 最後まで残って後片付けをしていた、一番若い板前の米田だった。「ああ」 坂上は、ざっと店内を見回って必要のない照明を消し…
そこはわりと評判のいいメンタルクリニックだった。「野口さん、診療室にお入りください」妻らしき女性に付き添われて入って来た男を見て、医師はすぐに異常に気付いた。目の焦点が合っていないし、何かブツブツ言っている…
同期が次々に出世していく中、栗田は未だに外回りの営業をしている。さすがにこの歳になると、得意先を何軒か回っただけで疲れてしまう。そんな時、喫茶店に入る小遣いもない栗田は、公園のベンチに座ることにしていた。日中の公園は近所の若い主婦が…
「どないなってるんや!」ここは場末にある小さな演芸場。スキンヘッドの体格のいい男がパンツ一丁の格好で、楽屋の中を行ったり来たりしている。男は時計をチラッと見ると、忌々しそうに舌打ちをした。 その時、ドアがノックされ、ポッチャリした若い男が…
片側二車線の国道は混んでいた。沢村の目の前を『わたしは法定速度を守ります。お先にどうぞ』と書いたトラックが走っている。すぐに追い越せる状況ならいいが、隣の車線は順調に流れていて、割り込めそうにない。沢村は、チラッと時計に目を走らせ…