文字化け物語

セレソン28

 出勤前にざっとニュースだけ見ておこうと、斉藤はテレビの電源を入れた。ちょうど、いつものアナウンサーがニュースを読み上げているところだった。
《劭吧E旻…妟た捷コ、燗ァ妍√そ宊…尬岔Bっ阨サ》
「な、なんだこれ」
 驚いたことに、アナウンサーが聞いたこともないような音声を発するたびに、斉藤の頭の中で上記のような文字列として認識されるのである。
「こりゃあ、まるで文字化けだな」
《寰あ册ァ叏す√圩ァ扣氒D伮っ卲…囤妎ゅ欤》
 もちろん、何を言っているのか、斉藤にはサッパリわからないのだが、どうして頭の中で変な文字に変換されてしまうのか、不思議でならない。
「おれが変なのか。いや、そんなはずはない。このアナウンサーが変なんだ」
 試しにチャンネルを変えてみた。サッカーの試合中継をやっている。
《丣ゅ伱刢√呄F坒囨た妟っ》
《伮…劰叓C呃孚う》
 さらにいくつかチャンネルを試してみたが、まったく同じことであった。
 その時、子供を幼稚園まで送った妻が戻ってきた。
「あなた、何やってんの。早くしないと、会社に遅れるわよ」
「それどころじゃない。テレビを見ろ、あ、いや、聞け」
「何よ、もう」
 だが、妻もすぐに異変に気付いた。
「これ、どういうことよ!」
「こっちが聞きたいよ。だが、まあ、良かった。おれだけだったらどうしようと思ってたんだ。おまえにも文字化けして聞こえるんだろう?」
「文字化けって、どういう意味よ。わたしには乱数表の数字の羅列のように思えるけど」
「えっ、違うのか。いったいどういうことだろう?」
「まさか、とは思うけど」
 妻はブルッと体を震わせた。
「なんだ、言ってみろ」
「ほら、聖書にあるじゃない」
「何がだよ」
「バブルの塔よ」
「違う。おまえの言いたいのは、バベルの塔だろ」
「そう、それよ。人間があんまり高い塔を建てるんで、神様が怒っちゃって、それまで一つだった言葉をバラバラにしてしまったって話よ」
「それが関係あるのか?」
「だって、バベルの塔どころか、超高層ビルがいっぱい建ってるじゃない。これで怒られないはずがないわよ」
「そんな、バカな話があるかよ。だって、两G佀ジ劬ゅ吧妗」
「あなた!どうしたの?8605933421115」
 ついにお互いの話が通じなくなり、二人が途方に暮れていると、玄関を勝手に開けて、誰かが入って来た。二人が驚いてそちらを見ると、白衣で白髪の老人だった。
「いやあ、すまんすまん。影響が出てしまったようじゃな」
「ぁ卲叓H囥ぇ妟!」
「6744095?」
「ちょっと待っておるのじゃぞ」
 老人が何かの機械を二人に当てた。
「あなたは誰なんですか。勝手に人の家に上がり込んで!あれ、戻ったぞ」
「もしかして、あなたは古井戸博士ですか?あら、ホントだわ」
「そうじゃ、古井戸じゃよ。いやあ、迷惑をかけてすまなかった。思念ワープロ、ええ、つまり、考えただけで文字入力ができる機械の試作機が盗まれての。探しておったんじゃが、どうも犯人は、お宅の飼っているイヌのようなんじゃよ。たぶん、齧ったりしたんじゃろうが、思念変換が音声の方に逆作用しているようじゃ。しかも、イヌの思考に同調しているので、人間の言語を正しく変換できないんじゃろう」
「おお、そうでしたか。それは逆にすみませんでした。ちょっと、様子をみてみます」
 斉藤は庭に出た。
「おい、ジャンポール!怒らないから、出ておいで」
 すると、何やら機械らしきものを咥えたイヌが現れ、こう吠えた。
「もっとうまいエサを喰わせろ!」
(おわり)

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  • 小説
  • 掌編
  • SF
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-02-10

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