ロボットカウンセラー

【第一の相談者:二十代男性社員】
 わっ、ホントにロボットでやんの。え、ああ、うん、聞いてるさ。見かけはどうあれ、最新鋭のカウンセラーマシンなんだろ。でもさ、最初に全社員の現状を知りたいから、何でも不満をブチまけていいよって人事課長は言ってたけど、ホントに大丈夫なのか。散々しゃべらされたあげく、あとで考課にひびく、なんてこと。
 え、それは絶対ないって。へえ、そうなのか。カウンセラー協会のコンプライアンス回路が組み込まれているから、人間のカウンセラーより安全だって。
 ふーん、ホントかなあ。ま、いいや。余計なおしゃべりしてたら、五分なんてアッという間だからな。一応、信じといてやるよ。
 ええと、おれの会社に対する不満は一点だな。この時代にアナクロもいいとこの年功序列だよ。おれが見る限り、三十歳以上の連中はみんなクソだな。まあ、この会社に限ったこっちゃないけどさ。大した能力もないのに、先輩風吹かせやがってよ。頭は固いし、センスもない。そのくせ、給料は高い。みんなクビにして、社長以下全員二十代にしちゃえば、この会社も、ちっとは良くなると思うぜ。
 え、何?なんだって?おれだって、いずれは三十歳になるじゃないかって?
 ふん、そんなこと知ってるさ。おれが言ってるのは、今現在の話さ。だから、まあ、なんだ、年齢っていうより、うん、世代の問題だよ。
 うーん、あんまりスッキリはしなかったけど、もう時間がなくなったのか。え?ぜひ明日も来てくれって?だって、順番があるだろう。ああ、未解決だからってことか。まあ、気が向いたらな。

【第二の相談者:五十代男性管理職】
 くだらん。まったく、くだらん。なんで今さら、機械に人生相談なんぞしなきゃならんのだ。しかも五分交替って、どういうことだ。
 ふん、一旦、まんべんなく全社員の声を聞くためってか。バカバカしい。会って五分も経たない初対面の相手に、誰が本音をしゃべる?ましてや、その相手がロボットだなんて。わしが機械に弱いからって、バカにするんじゃないぞ。
 ああ、ああ、知ってるよ。ちゃんと法律に基づいて実施されていることぐらい、わしだって新聞で読んださ。だが、見ると聞くとは大違い、ってやつだ。もうちょっと、こう、その、例えば美人にするとか、あるだろ。こんなブリキのオモチャみたいじゃなく。
 時間がなくなるって?ふん、わかってるさ。
 わしが言いたいのは、最近の若い連中が、いかに甘ったれてるか、ってことだ。わしらの若い頃は、もっと厳しかった。仕事のやり方なんか、誰も教えてくれなかった。だから、飲みたくもない酒に付き合って、先輩に気に入られるように努力したんだ。それがなんだ。二言目には、マニュアルはないんですかって。ふざけるな!
 え?若い者に対する年長者の不満は、古代エジプト時代からありますって?ふざけるな!
 何?もう時間がないのか。わしはまだ不満の十分の一もしゃべっとらんぞ。ああん?明日も来いってか。ふざけるな、と言いたいところだが、このままじゃ、かえってストレスが溜まる。時間があれば、また来てやろう。

【第三の相談者:三十代女性社員】
 え、何よ。どういうこと。ご不満をどうぞって。
 社内広報で流されたはず、ですって?そんなの、聞いてないわよ。ちゃんと説明してよ。はあ?時間がないって、そんなことわたしの知ったことじゃないわよ!
 はいはい、わかりました。言うわよ。言えばいいんでしょう。
 わたしが言いたいのは、この会社の男どものセクハラよ。あ、いえ、別に体を触られたとかじゃないわよ。そんなことされたら、即、百十番してやるわ。そうじゃなくて、日常の言動よ。
 女性にとって、朝は忙しいのよ。そりゃ、スッピンで出勤していいなら別だけど。どうしても、時間がかかるのよ。だからって、始業時間に五分遅れたくらいでガミガミ言うのって、おかしくない?絶対、差別よ。
 そのくせ、仕事がなかなか終わらなくて残っていても、終業時間だから帰りなさいとは言わないじゃない。それどころか、ギリギリの時間に伝票持ってきて、これもお願いって、どういうつもりよ!
 もう勤務時間過ぎてますって断ると、ニヤニヤしながら、これからデートにでも行くのかいって、余計なお世話よ!そんな相手なんか、いないわよ。
 え?若い子は違うだろうって?とんでもないわ!
 こないだなんか、おはさんって呼ばれたのよ!おばさん、この伝票、お願いねって!ああ、腹がたつ!ちょっとイケメンなのに。
 はあ?時間がないの?何よ、それ。
 え?また明日って、そんなの、まあ、いいか。じゃ、明日ね、きっとよ。

【第四の相談者:ロボット】
 うん?どうした?まだ始まったばかりだろう。電子回路に不具合でもあるのかね。え?辞めたい?どうして?回路が焼き切れそうだって。いやいや、ぼくは人事課長だ。機械のことはわからんよ。
 あ!煙が出てる!誰か、早くロボット会社に電話してくれ!
(おわり)

ロボットカウンセラー

ロボットカウンセラー

【第一の相談者:二十代男性社員】わっ、ホントにロボットでやんの。え、ああ、うん、聞いてるさ。見かけはどうあれ、最新鋭のカウンセラーマシンなんだろ。でもさ、最初に全社員の現状を知りたいから、何でも不満をブチまけていいよって人事課長は言ってたけど......

  • 小説
  • 掌編
  • SF
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-02-24

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