こんなラーメン屋はイヤだ

「あ、ども。わたくし、ラーメンは男のロマン、でお馴染みの、週刊ラーメンロマンの笠井と申します」
「うむ」
「えっと、インタビューの申し込みをさせていただいていたと思うんですが」
「ああ、聞いとる」
「ども。では、早速ですが、始めさせていただきます。ええと、現在、林田社長は日本有数のラーメンチェーンを経営されておられますが、元々まったく畑違いの職業からこの業界に入られたということですね」
「そうだ。大学で数学を教えていた」
「それがなぜ、ラーメン屋をやろうと思われたのですか」
「カネ儲けのためだ」
「はあ?あ、失礼しました。面白いジョークですね」
「何を言っとる、事実だ」
「あ、すみませんでした。まあ、経営者としてはそうだとしても、きっかけは、どこかの店で食べられたラーメンが美味しかった、とかでしょう?」
「わしはラーメンなんか好きじゃない。ほとんど食ったこともない」
「え、でも、それじゃ、どうして」
「だから、言っとるだろう。カネ儲けのためだと。わしは事前に様々な業種を調査し、ギリギリの原価率で最大の利益を出せる手法を発見した。それを具体化するのに、たまたまラーメン屋を選んだだけだ。別に、ソバ屋でもスパゲッティ屋でも良かったのだ。そもそも、わしはあまり麺類を食わん」
「あー、えー、ですが、さすがに、ご自身の店のラーメンは口にされるでしょう?」
「しつこいな。ラーメンなんか好きじゃないと言っとるだろう。自分の店だって同じことだ」
「し、しかし、第一号店では、自らラーメンを作っていらしたと聞いていますよ」
「当然だ。最初はわし一人で始めたからな。作り方はネットで調べた」
「ですが、それが美味しかったからこそ、今の成功があったのでしょう?」
「美味しいか、美味しくないか、わしにはわからん。モニターを雇って味をチェックさせ、一番評判の良かったレシピを徹底的に分析し、マニュアル化した。湯切りの際の、腕の角度までキッチリと決めてある。全国のチェーン店には、そのマニュアルを厳密に守らせておるのだ。だが、味よりも大事なのは、むしろ、原価管理だな。いかに仕入れを安くあげるか、これが儲けに直結している」
「はあ。ですが、そのう、もっと、こう、男のロマンというか」
「ふん。そんなものいらん。商売は、儲かるか儲からないか、だけだ。ラーメンは芸術品じゃない。いくら美味しくたって、一杯のラーメンに何十万も払う客はいない。所詮、小銭で買える商品だ。薄利多売だ。美味しいかどうかで評価される世界じゃない。結局、何杯売れたか、でしかない。麺類不況とか、若者の麺類離れとか言われておるが、原価管理さえしっかりやれば、まだまだ利益は出せるぞ」
「そんなあ。それじゃロマンのかけらもないじゃないですか」
「バカバカしい。ロマンじゃ腹は膨れんわい。そうそう、ウチのラーメンはカロリーもキッチリ決めている。誤差0コンマ2パーセントの範囲内だ。だから、安心して食うがいい。わしは食わんけどな」
「でも、でも、社長にはこれからの夢とかないんですか?」
「ああ、それならあるな。人件費がもったいないから、いずれ、従業員をすべてロボットにしたいよ」
(おわり)

こんなラーメン屋はイヤだ

こんなラーメン屋はイヤだ

「あ、ども。わたくし、ラーメンは男のロマン、でお馴染みの、週刊ラーメンロマンの笠井と申します」「うむ」「えっと、インタビューの申し込みをさせていただいていたと思うんですが」「ああ、聞いとる」「ども。では、早速ですが、始めさせていただきます......

  • 小説
  • 掌編
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-02-18

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