ブーラタ・モーリの財宝
カネってもんはよ、欲しがれば欲しがるほど逃げていく。ホントだぜ。おれだって、昔は宇宙海賊としちゃあ、ちっとは名の売れたお兄いさんだったが、もっともっと儲かってやろうと欲をかいたのがいけなかった。
なんだよ。聞きたくねえのか。いくら焦ってみたところで、磁気嵐が治まるまで系外宇宙行きの船は出やしねえよ。まあまあ、おめえもカウンターに座って飲みな。一杯おごってやるよ。どうせやるこたねえんだろ。いい暇つぶしと思って聞きな。
ええと、どこまで話したっけ。そうそう。おれはチマチマと小銭を稼ぐのがイヤんなって、一発でっかい仕事をやってやろうと考えたんだ。ちょうどそん時に、大海賊ブーラタ・モーリの財宝の噂を聞いたのさ。太陽系じゅうを荒らし回ったブーラタ・モーリの財宝がどこかに眠ってるらしいというのは、昔からある伝説だ。おれも、最初は眉に唾を付けて聞いてたさ。だが、今度の話は、どうやら信憑性がありそうだった。
系外宇宙へ行く手だてがなかったあの時代に、財宝が隠されたとすれば、どっかの小惑星じゃないかと誰でも思いつく。そこで火星・木星間の小惑星は、シラミつぶしに調べられた。だが、まあ、ハナからこれはありえない話さ。そんな安易な隠し場所のはずがねえ。もっと探しにくい場所に違えねえと、オールトの雲(太陽系最外縁にあると考えられている天体群)の辺りまで行くヤツらもいた。その中の一人が、そこで奇妙な断層のある小惑星を見つけた。これは人工的に作られた天体じゃねえかって、そいつは考えた。だが、小惑星といっても、そいつは月よりもデカいんだ。とても一人じゃ調べ切れねえ。そこで呼ばれたそいつの仲間が、何を隠そう、このおれさ。
おれとダチ公は、手分けしてその小惑星を掘り返すことにした。最新式の削岩マシンを何台も買ってな。割と柔らかい地層だったが、掘っても掘っても何も出て来ねえ。おれもダチ公も半ば意地になって、ありったけの資金を注ぎ込んで、徹底的に掘りまくった。無理がたたってダチ公が死んじまった後も、おれ一人で掘り続けた。だが、ついに資金が底を尽き、さすがのおれも諦めざるを得なくなった。
そこを撤収する前に、ダチ公とおれが買い込んだ削岩マシンやなんかをまとめて売っぱらったが、少し借金が残っちまった。どうしようか悩んでいるうち、いいことを思い付いた。掘り返す前、ダチ公が念のため先占(所有者のいない土地などを最初に占有すること)の届けを出していたんだ。おれはその権利を、人の好さそうなオヤジをだまくらかして売りつけた。
ああ、こっから先は、思い出すのもイヤになる。おれたちが散々掘り返したのを整地しようと、新しい所有者のオヤジが地質検査をやった。そしたらなんと、地層すべてがハイパー燃料の原料だった。ブーラタ・モーリの財宝とは、彼がいずれ系外宇宙へ進出する日のために、せっせと準備したハイパー燃料だったんだ。オヤジはすぐに会社を立ち上げ、ハイパー燃料を安値でバンバン売りまくった。おかげで、庶民でも気軽に系外宇宙へ旅行に行ける時代になったってわけさ。もちろん、そのオヤジは今じゃ大富豪だよ。
なあ、カネってもんは、追いかけちゃいけねえ。ホントだぜ。
(おわり)
ブーラタ・モーリの財宝