セレソン28

セレソン28

作家の本懐

明け方まで原稿を清書していたため、笹崎が起きたのは昼過ぎだった。水でも飲もうとリビングに行くと、テーブルの上に置いていた原稿の前に、妻が座っていた。「あなた、どうしてこんなに原稿の量が減ってるの?」怒りと悲しみが入り混じった表情で責める妻に......

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ビー玉は、どこへ消えた?

「ショウちゃん、早くしなさい。ユウキくんが迎えに来たわよ」「はーい」ランドセルをしょってショウが玄関を出ると、同級生のユウキが待っていた。入学してから三年間、ほぼ毎日繰り返された光景だ。「お待たせー。あれ、それなあに」ユウキは、何か丸い......

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社長、本を出す

レインボー出版は、主に地元の名士などの自費出版を手掛けている小さな出版社である。その日、編集長の花沢が持ち込み原稿の下読みをしているところへ、営業の小牧が青い顔で入って来た。「編集長、すみません」「どうした」「ぼくじゃダメって言われました......

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数学VS文学

「どうしてまた、文学部なんぞを志望するのだ。理学部がイヤなら、工学部はどうだ」「進路は自分で決めていいって、父さん言ってたじゃないか」「おまえが小説好きなのは知っとる。だが、それは趣味だろう。進路は真剣に考えなさい」「ぼくなりに真剣に考えた......

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プロペラをください

夏の夕暮れ、精三が公園わきの自販機の空き缶入れを覗くと、必ずいくつか入っているはずのアルミ缶が、今日はまったく入っていなかった。(ちくしょう、縄張り荒らしか)精三は、この公園の辺りを縄張りにしている。もちろん、誰かの許可を得たというわけでは......

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地球よいとこ、一度はおいで

ほう、あんた、地球旅行は初めてかの。わしはもう三度目じゃ。到着まで、まだ時間がかかるから、わしがいろいろ教えてやろう。そりゃあ、面白いところじゃよ。なにしろあの狭い惑星に、何百万種もの生物がひしめき合っておるんじゃからなあ。宇宙広しといえど......

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ネットおやじ

「おはよう」「あ、おはようございます」挨拶を返しながら、須田さんはまた九時ギリギリのご出勤か、と今井は思った。(なのに、定刻の五時になったらサッサと帰っちゃうんだ。遅れず休まず働かず、のお手本みたいな人だな)「さ、て、と」 須田はそう独り言を......

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ない世界

おはようございます。今日はわりと気分がいいです。ああ、すみませんが、カーテンを少し開けてもらえませんか。ちょっと、外が見たいので。そう、そのぐらいで結構です。はい、食欲はあります。もう、おかゆじゃなくても大丈夫だと思いますよ。あ、いえ、......

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推理小説なんてキライ

仕事を終えてバスに乗り、吊革に体重を預けながら、和代はぼんやり外を眺めていた。頭の中では、昔、父が酔っぱらうとよく歌っていた『今日の~、仕事はつらかった~』というフレーズがエンドレスで流れている。トートバッグからスマホを出して何という曲名か......

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わしは消火器だ

わしは消火器だ。当然だが、名前なんかない。ごくごく普通のABC火災対応の粉末式消火器だ。ちなみに、Aは普通火災、Bは油火災、Cは電気火災である。わしが置かれているのは、とあるホテルの廊下だ。通行の妨げにならぬよう、壁の凹んだところに納め......

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