「二階堂様ですね。お待ちしておりました。それでは、これまでの人生で二番目に大切なものを買い取らせていただきます」/2019年製作。投稿サイトの企画に参加するために書いた作品です。
小説の真似事だと言って私は眠りについた。最後に見た彼の姿はひどく不安そうで「百年も待てない」と顔に書いてあるようだった。私は「百合の花でなくとも、きっとあなたの前に現れます」と心の中で呟く。/2019年製作。投稿サイトの企画に参加するために書いた作品です。
「ショートコント、サラリーマン」暗闇を円形にくり抜いたようにパッと照らし出されたステージの中央。バーコード頭に口ひげ、鬱陶しいほど長いネクタイを締めた背広姿の男がひとり、観客席に向かってそう言った。/2018年製作。
誰にも侵入されないように下ろした、窓のクレッセント錠。閉め切ったベージュのカーテンに、肌寒い冷房の風が当たって静かに揺れる。私の心も、こんなふうに不安定に見えるのだろうか。/2017年製作。女性の揺れ動く心情をテーマにしたお話です。女体盛りのシーンがあります。
叫びたくても、口に詰め込まれた布がそれを許してくれない。可奈は、真っ暗な視界の中で必死に酸素を取り込んだ。かび臭いような、腐肉のような、不快な臭いが嗅覚を刺激する。自然と嗚咽が込み上げるが、この状況で嘔吐すればもっと最悪な事態を招くことは五歳の可奈でも十分に理解できた。/2019年製作。年齢制限なしでカニバリズムを書く試みです。
【産めよ増やせよ、我らが未来!】駅前を歩けば、まるで悪い夢のようにこの手のスローガンを掲げたポスターが並んでいる。シラブアム博士は十年物のウールコートのポケットに手を突っ込みながら、色とりどりのポスターに向かって唾を吐いた。/2018年製作。SFの練習用に書いた作品です。
極彩色のネオン。往来を走る車が、威嚇するようにクラクションを鳴らした。美亜は不安から、繋いだ手にぎゅっと力を込める。十二月に入ってから、一段と日没時間が早くなったように感じるのは気のせいではないはずだ。太樹は、美亜の手を握り直した。冬が近付くと一日が短くなったみたいで切ない、と少し前に、美亜が言っていたのを思い出したからだ。/2019年製作。女装がテーマの作品です。
生きとし生ける者全て、使命を持って産まれてくるんだと私は思う。 ただし成すべきことを本人が理解できるかどうかはまた別の話。運良く到達したとして、運悪くビルから飛び降りたあとだったら意味がない。 その点、私は幸せ者だ。 /2019年製作。自殺がテーマのアンソロに寄稿予定だった作品です。
オーストリア全域に雨が降っていた。まるで届いたばかりの悲しい知らせに申し合わせたかのようだ、と彼は手配したハイヤーの車窓から灰色の空を眺めて思った。/2018年製作。
対岸の火事を見ている。それはことわざでも比喩でもなく、小高い丘に腰を下ろした喜多は、眼下に広がる民家がもうもうと煙を上げて燃えさかっているのをただ黙って見つめていた。/2018年製作。聾唖の女性と恋をするお話です。ややグロテスクなシーンがあります。
◇ 虎太郎、ピーマン残してねぇで食えってんだよ、だからおめぇは、背が伸びねーつーんだよ ◇ お父つぁん、それモラハラだよ ◇ 何でい、モラハラってのは。横文字かい、娑羅クセェってんだよ…、その顛末やいかに。400文字以内のショートショート落語臭。とても短い創作落語。原稿用紙一枚(20×20=400文字)程度だから、およそ60秒で読める「一分落語」。爆笑は期待できないが、じんわりとくる面白新作落語臭。
◇ お前さん、干支いえるかい? ◇ 干支だけに、えっと、なんつって。ではでは…、ねーうし、とらうー、たつみー、うま…、あれ何だっけ? ◇ 干支だけに…、その顛末やいかに。400文字以内のショートショート落語臭。とても短い創作落語。原稿用紙一枚(20×20=400文字)程度だから、およそ60秒で読める「一分落語」。爆笑は期待できないが、じんわりとくる面白新作落語臭。
奇妙な味の小説:僕の友人はいい物を持っている。それを欲しいという人に惜しげもなく、相手の持っているものととりかえる。そんな彼の人生は