彼と私の格差婚

七瀬 幸

ご覧いただきありがとうございます。
ピュアストーリーをゆっくり書いて行ければと思っています。
よろしくお願いいたします。

出会い

私は、本屋で働く真奈。
時おり訪れる名も知らぬ異性を気にかけている。
男性は、身なりを気にしない風体で、洋服にかけるお金は全部本につぎ込んでいるのでは無いか?
と思える程に、洗いざらしを通り越した身なりをしている。

私の家も裕福ではなかったが、外出する時などは身なりを整えるように、父母には口うるさく叱られてきた。母の田舎では、「ふうが悪い」と言うらしい。体裁が悪いと言う事のようだ。
なので、知識欲旺盛な男性が身なりを一切気にしない!と言うのは、気になって仕方なかったのだ。

そんな男性に、不意に声をかけられてしまった。
探しているが見つからないらしい。
本屋では、よくある案件だけれどこの人は、どこまで本好き?
私の容姿などは、目に入ってはいない。
ただの本屋の店員に過ぎないので、仕方ないけれど、私はここにいる!って叫びたくなる衝動を抑えつつ、お探しの本を検索させていただく。
そんな事を繰り返すうちに、顔を覚えてくれたらしく、私のシフトの時間帯には調べて欲しい本を、私に頼んでくれるようになっていった。

少しづつ店に来ては、他愛ない挨拶を交わすようになった頃、男性は突然現れなくなってしまった。
「何故だろう、引越しでもしたかな?」と、存在を忘れかけた頃、彼はひょっこりと店に顔を出したが、その身なりはまるで別人のように整っていた。
「彼女さんでも出来たかな?」
と思った時、彼が私の元にやってきた。
「こんにちは」
「あっ! こんにちは」
「僕は、今年で大学を卒業しました。就職もしましたので、改めてお付き合いお願いします」
「え!私ですか?何故私なんでしょう?」
しがない本屋のいち店員に過ぎない私は、心の底から驚いたけれど、彼はひるまない。

「貴方は、僕がボロボロの服装をしていても、他のお客様と変わりなく接客してくれましたよね」
「とても嬉しかったんですよ。大学でも煙たがられていましたからね。」
髪もサッパリとカットされて、ビジネススーツがよく似合っている。
過去の彼は、どこに行ったのか?と思う程自信に満ちて話す様子に、こちらがたじろいでしまう。
「お返事は、今すぐでなくてもいいですよ。1週間後にまた来てみますので、出来ればその時にお返事下さい。」
彼は、そう言い残して丁寧にお辞儀をして帰っていった。

デート

あっという間に1週間がたってしまった。
私は、答えを出せずにいた…
「こんにちは、今日は何時に仕事が終わりますか?」
「6時には……」
「では、下のカフェで待っていてもいいですか?」
「あの、でも…私あまり貴方のことを知らないので、お名前さえ知らないのにお付き合いと言われても。」
「川瀬 修です。よろしく!」
「とりあえず、カフェで待ちますね。
友達が待っていると言うくらいに、気軽に考えて下さいね」
川瀬と名乗った彼は、私の仕事終わりを待つと言う。
「どうしよう…
ただのお客様だったとはいえ、少し気になっていた方だし…
でもな〜」考えは、頭の中でぐるぐる回って答えが出ないまま、終業時間となってしまった。
カフェに行くべきか?悩んだ末に一度だけ、きちんとお話しようと腹を括った。

カフェでは、優しいオルゴール音楽が流されていた。
そんな中で、彼は仕事が終わるのを1時間も待ってくれたのだから、きちんと話そう!
私が入り口を入ると、わかりやすい席で彼は待っていた。
「お疲れ様」
「ありがとうございます」
「僕も、名乗ったので貴方の名前を教えてくれますか?」
「梶尾 真奈です。」
「真奈ちゃん、可愛い名前ですね。」
「そうでしょうか?」
「直ぐに答えを出すのは、難しいのでしょう。」
「あ、はい」
「正直な人だな。」
「私は、ミルクティーを」
スタッフの方が水を持って来てくれたので、とりあえず注文する事にしたが、彼は私を見て楽しげににこにこしている。
「仕事以外の姿を初めて見れたので、嬉しいだけですよ!変な事なんて考えて無いので安心してくださいね。」
彼は、私を気遣ったのだろう。
「まずは、お友達から初めませんか?」
彼から切り出されては、何も言えない。
「そして僕の事を、良く観察してください。それから貴女と価値観が似てるか?とか、良く考えて返事をしてください。」
「それで良ければ。」
随分自信があるのだな!と思ったけれど、長くは続かないだろう……
そんな気がして、返事をしてしまった。

友達として

川瀬さんの提案で、友達としてのお付き合いを始めた私達は、連絡先もまだ交換していない。
「真奈ちゃんが嫌なら、連絡先の交換も先に伸ばそうよ。」
川瀬さんからの提案によって、私の意思を尊重してくれる形に治まったのだ。
私と仲良くなりたい!と言う意思を感じて、少しこそばゆかったが、(こんな考えの人は、初めてだな)
と言うのが、私の本音だった。
今どき、出会ってすぐに「LINE教えて」が当たり前と思っていたからだ。
川瀬さんは、無理をしない。
ゆっくりでいいから、自分の事を知って欲しい!とも感じられる。

まるで何処かのテレビ局の朝ドラ並に、ゆっくりと時間楽しむ、そして私の心の中に入ってくる。
私としても、男性とお付き合いするのが、初めてと言う訳では無い。この歳なのだから1度2度のお付き合いくらいはしているけれど、それでも新鮮な感じがして時折ドキッとする!
お会いする時も、彼は店に顔を出して私に声をかけて、カフェで終了時間まで待つ!と言う具合で、自分の労力を惜しまない。

どうして?
そこまでして、私なんだろう。
理解できないのは、今も変わらないけれど、ストーカー的に毎日来るわけでも無いし…
忘れかけた頃に、ふらっと現れて他愛ない会話を交す、そんな事を繰り返している。
けれど、今日は少し違う。
「お腹空いてない?ご飯たべようよ」
川瀬さんは言った。
「そうですね。何食べましょう。」
私も、警戒心が随分薄れた頃、初めてのお食事となった。
(以外と綺麗な食べ方をするんだな)心の中で思いつつ、その日の食事は食べ終えて、川瀬さんは私を駅まで送ってくれた。
別れ際に
「本当に、連絡先交換しなくていいんですか?」
彼に聞いてしまった。
「教えてくれるの?」
「まぁ、そうですね」
いつまでも、一度店に顔を出されるより、連絡する手段があった方が、私も気が楽になっていただけの事なんだけど、彼はニコニコと嬉しそうな顔で、携帯を取り出した。

LINE

LINEのアドレスを交換して、その夜にはご挨拶LINEが来た。
なんだか、女子友達とは違う感覚で、一人でほおを赤らめた。
この歳になって、この気恥しさはなんだろう。
川瀬さんは、LINEできるからと言って無闇に使う訳では無い。時おり「お疲れ様」とか、明日都合どうでしょう?と言う内容のLINEが来るだけなので、連絡事項LINEと命名したいくらい。

そんな考えが浮かんだ時、彼はどんな仕事をしているのだろう…気になり始めた。
LINEで、聞いてみる事にした。
「私は、貴方がどんな職業なのか知りたいの」
既読は付くが返事がない!
そう言えば、私が6時終わりでも早くに店に来ていたな…
そんなに早く終わる仕事って無いはず!
やっぱり無理かな?
無職の人とは、お付き合い出来ない。
ピロンLINEの着信音が鳴った。
「実は、大学生の頃に起業したので、社長をしています。忙しいけれど、時間の融通が効くので助かります。」
「へっ!」思わず声が漏れた。
社長?本当だろうか?いやいやそんな小説みたいな話が、そこらにころがっているはずないだろ!
心の中で思いつつ、なんだか話が続かなくなってしまった。

本当の彼

社長?
本当だろうか?
詐欺師?
色々な思いが頭の中でぐるぐる回る。
「今日の仕事終わりに、会社を案内しますよ。
本当に小さい会社なので、びっくりすると思いますけど。」
川瀬さんの提案を受け入れて、仕事終わりに待ち合わせる事になってしまった。

会社を見せてもらった。最寄り駅から少し離れた古びたビルの一室にオフィスを構えている。
机は、5個
1つは、社長用で4人の社員がそれぞれ営業や事務などを担当していると話してくれた。
「まだまだ、駆け出しで会社とも呼べない程小さいから、話すのは先のに延ばしたかったんだ。」と笑いながら話す川瀬さんは、鞄の中から缶コーヒーを2本取り出して、1つを私に差し出した。
「本当はね。会社を廻すのがいっぱいいっぱいになる事があるんだ。でも、真奈ちゃんとのLINEを読み返すと、ここで踏ん張らなきゃ!って思える。
贅沢なプレゼントも、高級なレストランも連れて行ってあげられないけれど、付き合って貰えませんか?」
2回目の申し込みは、殺風景な小さなオフィスで、缶コーヒーを飲みながら…となった。
彼は、飾り気のない本心を語ってくれていると、実感出来た。
「本当に、私なんかでいいんですか?」
「僕には、真奈ちゃんしか見えないです。」

お付き合い

彼の仕事や、小さなオフィスでの缶コーヒー。
今までないシチュレーションに少し戸惑って、今夜は眠れない。
幸い明日は、遅番なので、10時に出勤すればOKだけど、川瀬さんが身なりも気にせずに本を読み漁った理由が、少し理解できた気がした。
そんな川瀬さんとのお付き合い……
贅沢を望む訳でもないし、高級レストランを望む訳では無い。
私に何がしてあげられるのだろう?
それを考えると、今お断りするのがいいのか?
ただ傍にいるだけでいいなら……
何度も何度も頭の中でぐるぐる回る。

そんな中、川瀬さんからLINE。
ピロンと言う着信音で、ハッとする。
「今日は、お付き合いしていただいてありがとうございます。お返事はゆっくり良く考えてからでいいので、焦らないでくださいね。」
まるで私の心理を読まれて、先回りされてしまったような内容だった。
お仕事の大変さがあるとはいえ、私への気遣いは変わらない。

私も腹を括ろう!
「これからも、よろしくお願いいたします。」
返信に迷いはなくなっていた。

彼は、それから良くLINEをくれた。
私も返信する。
話の内容も、連絡事項から話したい内容へと変化した。
好きなアーティスト、食べ物の話し。
彼が絵を描く事も分かった。
少しづつ近ずく感じが心地よかった。
彼は忙しい為、会える回数が増えた訳では無いが、距離感が近ずく感じがして、安心できた。
会う時も、飾らずお金のかからない公園や美術館などがメインとなり、私は彼のためにお弁当を作る。
まるで学生時代のような内容だけど、充実した時間が好きだった。

プロポーズ

私自身彼とこんなに長いお付き合いになるとは、夢にも考えていなかった。
けれど、月日は経ちもうすぐ2年を迎える。
私は、彼との距離感がとても心地よく、彼も私と話す時は、よく笑わせてくれた。
贅沢なプレゼントも、高級なレストランもなかったけれど、私の作るお弁当を美味しそうに食べる姿を見る時間は、何にも変えられない至福の時だった。

ピロンLINEの着信音がなる。
「明日は、真奈ちゃんの誕生日だね。
時間を作るから、明日はご飯食べに行こう。」
彼が、小さなオフィスの社長と知ってから、極力外食は控えて来たが、お互いのお誕生日だけは、食事に出かけていた。
「了解です」
待ち合わせ場所を決めて、仕事終わりに会う事に。

「お待たせ〜。行こうか。」
彼は、いつになくビシッとスーツを着てきた。
私は何時も通り少し前に買った春色のワンピースにカーディガン。
並んでもおかしくないかな?
少し気になっていたが、後悔しても仕方ない!
と、彼の横で手を繋ぎながら歩いた。
程なく、レストランに到着したのだけど、高そうなイメージでびっくりした。
「えっ!ここで食べるの?」
「うん!今日はここを予約したんだ。」
「……」
彼に手を引かれて中に入ると、シンプルだけど品のいい内装と、係の人が出てくる。
案内されたのは、窓際の夜景の見える素敵なテーブル席。
「大丈夫?」小声で彼に聞いてみる。
彼は頷いて席に着いた。
コース料理が終わると、彼が話し出した。
「お誕生日おめでとう。今日を特別な記念日にしたいから、協力してくれない?」
「はい」
「長く僕を支えてくれてありがとう。
これからは、もっと傍で支えてください!」
彼が取り出しのは、シンプルな指輪だった。
「はい、よろしくお願いします」
レストランのお客様からも、拍手をいただいた。
最高の誕生日、最高のプロポーズ、私は幸せをかみしめていた。

彼が本屋を頻繁に訪れていた頃、こんな未来など想像も出来なかった。


[完]

彼と私の格差婚

彼と私の格差婚

  • 小説
  • 短編
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2022-03-07

Copyrighted
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Copyrighted
  1. 出会い
  2. デート
  3. 友達として
  4. LINE
  5. 本当の彼
  6. お付き合い
  7. プロポーズ