SS50 不用意

男の子が、昨日まで同じクラスだった女の子の顔を見詰めて、大きな声でそう言った。

「向こうに行っても頑張れよ」
 一歩前に出た男の子が、昨日まで同じクラスだった女の子の顔を見詰めて、大きな声でそう言った。
 途端、すぐ脇で俯き加減で座っていたその子の母親が顔を上げて立ち上がった。
 居並ぶ人達を押し退けて詰め寄った彼女の腕が迷う事なくその頬に振り下ろされると、その場に大きな音が響き渡る。
 二度、三度、四度。もちろん男の子は悲鳴をあげて号泣し、周囲は大騒ぎになった。
 黒服の男性三人に羽交い絞めにされて引き離されていく彼女は、まだ殴り足りないらしく盛んに腕を振り回している。その目には明らかに殺意が宿っていた。

 誰が悪いのかと言えばもちろん男の子の方なのだが、あの不用意な発言にどれ程の悪意があったのかは不明だ。
 
 
 ……とにかくそれが昨日の通夜で起こった出来事だ。

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  • 小説
  • 掌編
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2022-03-10

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