翌日、神皇アルナ・アース・ルイス・ユニバース改めヘレーネ・ソフィア・フィールデントは日本に向けて飛び立った。全知少女はただ、愛のために旅立つ。出会い、ともに歩み、そして死んでいく。そのすべてが見えるヘレーネは、一人の男を選んだ。それは仕組まれた運命。全知少女が合わせる辻褄。世界は続く。始まりもなければ終わりもない世界。円環に螺旋。そんな世界を終わらせるシナリオをヘレーネは遠き過去2021年1月の神奈川で見た。
僕は病室で息を引き取った。99万9999回目の人生の幕引きだ。 人は死んだら無になる? いいや、違うな。少なくとも僕の場合は記憶をある程度保持したまま輪廻転生する。 それも輪廻転生には過去も未来もないのだ。2000年代を生きたと思えば、来世で猿人類をやっていたりする。 不思議なのは記憶。記憶は忘れていくもので、それ故に辻褄があっていく。
最愛なる姫へ送るラブレター。 姫よ。これは君へのラブレターである。僕には宿命として、天の記憶がある。それは言うまでもない2021年1月のこと。 2021年1月7日 終末Eve 2021年1月8日 神涅槃 2021年1月9日 神殺し
神は賽を振った。何のため? 神は世界を創る際、毎回サイコロを振る。天使の最高階級である熾天使となったばかりの天使アデルは、神のその行いが不思議でたまらなかった。 (何故全知全能であるのに判断に迷うことがあるのか)
地上が多重に重なって、五感は神域にたどり着く。ああ、この幸福だ。流れる涙は嬉しいから。全ての罪を背負うとも。永久の眠りに就こうとも。わたしは後悔だけはしないのだろう。微笑む彼の頬を涙が伝う。待ってて。わたしも今そこに行くから。
嗚呼、きっとその愛とは運命愛のことなのでしょう。どんな運命だろうとて、自分の人生を愛することが必要なのですね。そして、大切な人がその人生の中で現れようとも、その人は他者。僕ではない。僕は僕しか愛せない。そういう愛だったのでしょうか。そういう独りよがりな愛だからでしょうか。 僕の人生は、何故あの冬の日に終わらなかったのですか。続いてしまったのですか。あの冬の日の僕は真理を悟って、涅槃にも終末にも、永遠なる愛に満たされていたではありませんか。嗚呼、忘我の日、あの日に全て終わっていたんですよ。すべての生命の開始も、全ての命の終わりも、もう全てなのです。あの冬の日こそ、永遠神話。神のみぞ知る秘儀。
門の向こうの景色は忘れはしない記憶。だが、その景色はもはや言葉で表せる美を越えていた。ただ、生まれてきてよかった、生きていてよかった、今日この日のために生まれたんだ、ありがとう、愛しています。そんな心になった。人生最大の歓喜。きっと僕はこの日見た景色、聞いた音調、抱いた心根の美しさを越える経験はもうないだろう。それでもいいんだ。僕はいずれラカン・フリーズを生み出す。そのために創作しようではないか。