若い女性に先導され、小学校低学年ぐらいの少年少女三十名ほどが、その展示室に入って来た。「さあ、みなさん、静かにしてね。ここが『地球の石』のある部屋ですよ」少年の一人が手を挙げた。「先生、質問があります!」「なあに、ヨシユキくん?」「本当に......
「ぼくのプリンセス、お目覚めの時間だよ」そう言って亜美を起こしに来たのは、アイドルの中越雄二だった。亜美は片目だけ開けて目覚まし時計を確認すると、不満げに口をとがらせた。「もー、今日は日曜日だよー。会社は、お休みー」中越雄二は人差し指を......
「徳田さん、いよいよ今年、定年ですね。おめでとうございます」邦夫に声をかけてきたのは、大学の後輩にあたる庄野桜子だった。後輩といっても随分若く、まだ60歳そこそこのはずである。「ありがとう。なんとか会社が潰れる前に、定年にたどり着いたよ......
なあ、超能力で悪いことをしても罪にならないって話、聞いたことあるかい?そうか、知らないか。何故なら、刑法には超能力を罰する法律なんてないから、だってさ。え、そんなことより、そもそも超能力なんてあるのかって。そりゃあ、あるさ。実際のところ......
森田がその競技に参加するのは、これが初めてだった。通常は野外コンサートなどに使用する会場に、すでに数十名の参加者が集まっている。やがて定刻となり、正面のステージに立った司会者が、マイクに向かってしゃべり始めた。《みなさま、お待たせしました......
『新労働力雇用実務セミナー』という看板が掲げられた会場には、50名ほど集まっていた。(高校の授業を思い出すなあ。ホント、つらいよ)人材派遣会社の採用担当である元木は、周期的に襲って来る睡魔と闘っていた。(どうして、もっと楽しいしゃべり方が......
謝って済む問題か、などと言って怒る人がいるが、逆に言えば、大抵のことは謝れば済むのである。それを謝らないから問題がこじれるのだと、若山は思った。「どうして、あたしが謝んなきゃいけないんですか?」若山の予想通り、新人の酒井は口を尖らせた......
なあ、世の中ってのは、ほどほどがいいんだよ。あんまり厳しくしちゃいけないし、あんまりゆるくてもダメなんだ。あんたもそう思うだろう。え、ゆるい方がいいって?ほう、職務怠慢でクビになったのか。それはそれは、お気の毒に。まあ、ここの暮らし......
校舎から少し離れたプレハブ棟に文化系クラブの部室がある。文芸部は一階の右から二番目、映画研究会と手芸部の間だ。尚美が入って行くと、すでに話し合いが始まっていた。「すいません、遅れちゃって」テーブルの奥側にいる部長の高梨が、軽く手を振った.....
連休中に帰省したり旅行したりする家族が多いためか、団地の中は静かだった。こんな日には、どこに出掛けたところで混んでいて疲れるだけだから、むしろ家でノンビリした方がいい、という夫の主張を渋々受け入れたものの、主婦である幸恵の方はゆっくり休めるわけが......