環境破壊
これは自然に対する暴挙というものだ。眼前に広がる光景に圧倒されながらも、男はそう思った。
久しぶりに戻った故郷の村は、まるで様子が一変していたのである。男が幼い日々を過ごした森は切り払われ、柔らかな曲線は幾何学的な直線にとって代わられていた。村人たちはどうしてこんなことをしてしまったのだろう。呆然としている男に誰かが声をかけた。
「おお、久しぶりだな。いつ戻ったんだ」
相手の顔に昔の面影が残っていた。男の幼馴染だ。
「うん、昨夜遅くに着いた」
「そうか。それじゃあ、ここを見るのは初めてか。驚いたろう」
「ああ」
「どうだ。すばらしいだろう。これで村の繁栄は間違いなしだ」
誇らしげな幼馴染の顔を、男は睨みつけた。
「何を馬鹿な。お前も外国にかぶれたのか」
男の態度に、相手もムッとした顔になった。
「馬鹿はお前だ。外国から取り入れたこのやり方で、どれだけ村の収穫が増えたと思う」
「こんな自然の摂理を無視したやり方が許されるのか。自然の恵みは与えられるもので、無理やりに奪い取るものじゃない」
「何を古臭いことを言っている。今までより豊かになって、みんな喜んでいるぞ」
「違う。みんな騙されているんだ。くそっ。こんもの、おれがブチ壊してやる」
「おい、やめろ、やめるんだ。おーい、みんな来てくれ。こいつを止めてくれ」
もみ合う二人を、駆けつけた村人たちがようやく引き離した。
村人たちに腕を押さえられながらも、男は幼馴染を睨んだ。
「もういい。おれは出て行く。こんな村に戻りたくはない」
「ふん。勝手にするがいい。お前のような男は新しい時代に取り残されるだけさ」
「それでいい。おれは昔どおりに生きていく」
捨て台詞を残して男が立ち去ると、何事もなかったように村人たちは今日の仕事にとりかかった。
最近、外国をマネして作り始めた水田に、稲という草を植えるのである。
(おわり)
環境破壊