学習効果
その日、早川がいつも通勤する時間より一本早い電車に乗ると、車内で同僚の沢村を見かけた。
音楽でも聴いているのか、開放型のヘッドフォンをつけてボンヤリ車外の景色を眺めている。
「よう、何聞いてるんだ?」
早川が声をかけると、沢村はちょっと驚いたような顔をした。
「ああ、早川か。大したものじゃないさ」
「何だよ。隠すことないだろ。ははあーん。虹色XYZ58とかいうアイドルだろう」
「そうじゃないさ。まあ、おまえにも少し聞かせてやるよ」
沢村はヘッドフォンを片側だけ外して早川の耳に当てた。
聞こえてきたのは英語だった。
「へえ、勉強熱心なんだな」
「いやいや、今流行の、聞き流すだけのやつさ」
「ほう。それで、英語をしゃべれるようになったのか」
「まだまださ。だが、学習効果はあったよ」
「えっ、どんな効果だ?」
「部長に怒鳴られても、カミさんに愚痴をこぼされても、楽に聞き流せるようになったよ」
(作者註:あくまでも個人の感想です)
(おわり)
学習効果