「なんじゃ、これは!」 ガチャンと何かが割れる音。「申し訳ありません、お師匠様」 師匠と呼ばれた老人は顔を真っ赤にし、肩で息をしている。「おまえはわしの教えを忘れたのか。こんな下品なものを作るとは。ああ、情けない…
午後の外廻りは誰しも眠いものだ。缶コーヒーでも飲もうと、大久保が道路脇の自販機にコインを入れようとした時、ふと、背後に人の気配を感じた。振り返ると、ひどく疲れた様子のサラリーマン風の男が立っていた。髪はボサボサ、無精髭を生やし、だらしなく…
「お父さん、お久しぶりです」「おお、シゲルか。元気にしていたか」「はい。家族もみな変わりありません」「それは何よりだ。ところで、研究は進んでいるかね」「ええ。お父さんの研究を引き継いでから十年になりますが、新しい機械を導入した効果もあって…
マミはロボットのトモゾーが大好きだった。 マミが物心つく前からトモゾーは家にいた。パパに聞いたら、パパもそうだと言う。トモゾーを買ったのは、パパのパパ、つまり、マミのおじいちゃんだ。人間ならもう六十歳を超えているはずとパパが言っていた…
森のクマが企画した合コンだった。森に住むほとんどの動物が集まっていたが、一番張り切っているのはウサギで、相手かまわず声をかけていた。「マジやばくねえ。あんたチョーかわいくねえ」 いいのか悪いのかちっともわからないため、大抵は無視されている…
坂口がマイカー通勤していると言うと、大抵うらやましがられる。 だが、渋滞に巻き込まれたり、油断してバッテリーが上がったり、ガス欠寸前なのに近くにガソリンスタンドがなかったり、ほんのちょっと停めただけなのに駐禁を切られたり、やけに前が空いて…
「どーも、こんちわー。ご隠居様いらっしゃいますかー」「おやおや、誰かと思ったら、八っつぁんじゃないか。どうした、何か困りごとかね」「さすがご隠居様。さっしがいいねえ」「ふふふ。お前さんがわしのところに来るのは、何かあった時ぐらいなものだろう…
山本は日頃の運動不足を補う為、雨の日以外は会社の最寄り駅のひとつ手前で降り、そこから歩くことにしている。なるべく排気ガスを吸いたくないので大通りは避け、裏の路地を縫うように歩く。 いつも通る道の途中に魚肉加工工場があるせいか、この辺りは…
おばあさんからもらったキビ団子でイヌとサルを家来にした桃太郎は、これで充分鬼と戦えると考えた。そこで家来探しの旅を中断し、さっそく鬼ヶ島へ行く船の準備を始めた。 すると、そこへ一羽のキジが飛んで来た。「ちょっと、桃太郎の旦那…
(作者註:近々ホテルに泊まる予定のある方は読まないでください) 細川は出張に行く際、できるだけ安くて新しいホテルに泊まるようにしている。だが、今回はあいにくその地方で大きなイベントがある日らしく、少々値段の張る古いホテルしか取れなかった…