ビー玉は、どこへ消えた?

「ショウちゃん、早くしなさい。ユウキくんが迎えに来たわよ」
「はーい」
 ランドセルをしょってショウが玄関を出ると、同級生のユウキが待っていた。入学してから三年間、ほぼ毎日繰り返された光景だ。
「お待たせー。あれ、それなあに」
 ユウキは、何か丸いキラキラしたものを握っていた。
「これかい、これはラッキーなビー玉なんだってさ。おじいちゃんが、知り合いの外人さんからもらったんだって」
「ふーん。ちょっと見せて」
 ユウキからそのビー玉を受け取り、ショウは手のひらで転がしてみた。
「ちょっと変わった模様だね」
「だよね。良かったら、それ、あげるよ」
「えっ、大事なものじゃないの」
「いいんだ。この間もらったエルニーニョカードのお返しさ」
「ありがとう」
 二人は並んで歩き始めた。歩きながら手のひらのビー玉を見ているショウに、ユウキが話しかけた。
「そういえば、おじいちゃんが言ってたけど、ビー玉って、ホントはアウトレットなんだってさ」
「え、どういうこと?」
「ショウちゃん、ラムネって知ってるよね」
「ああ、あのビンの中にビー玉が入ってる飲み物でしょ」
「あれは、ビー玉じゃないんだって」
「じゃ、何?」
「あれは、エー玉なんだって。ABCのAだよ。で、A玉を作るとき、失敗しちゃったヤツがB玉だってさ」
「へえ、そうなんだ」
「まあ、ホントかどうか、ぼくにもわかんないけどね。ところで、ショウちゃんからもらったエルニーニョカードだけどさ」
 話題がカードゲームに移ったので、ショウは手を背中に回し、ビー玉をランドセルの隙間から中に放り込んだ。だが、まともに教科書にぶつかってしまい、ビー玉はランドセルの外に飛び出した。
 ゲームの話に夢中になっている二人は全く気付かず、そのまま歩き続けた。
 ビー玉は、コロコロとゆるい坂道を転がって行った。すると、どこからか飛んできたカラスがサッと咥えて舞い上がった。屋根より高く上がったところで、それが食べられないものだと気付いたらしく、パッと放して飛び去った。
 落されたビー玉は屋根の上を転がり、雨どいを伝ってその家の庭に出てきた。そこへ、その家の飼いネコが走って来て、前足で器用にビー玉を転がして遊んだ。何回かやるうち、ネコの前足が強く当たって勢いがつき、ビー玉は再び道路に転がり出た。
 偶然通りかかった自動車が、タイヤでビー玉を弾き飛ばした。飛んだビー玉は、電柱にぶつかり、次に郵便ポストに跳ね返され、さらに喫茶店の看板に当って落ち、たまたまその下を通っていたショウの、ランドセルの隙間からスポッと入り込み、今度はうまく中に納まった。
 学校に着いたところで、ショウはランドセルからビー玉を取り出した。そして、手のひらで転がしながら、首をひねった。
「うーん、これって、何がラッキーなんだろう?」
(おわり)

ビー玉は、どこへ消えた?

ビー玉は、どこへ消えた?

「ショウちゃん、早くしなさい。ユウキくんが迎えに来たわよ」「はーい」ランドセルをしょってショウが玄関を出ると、同級生のユウキが待っていた。入学してから三年間、ほぼ毎日繰り返された光景だ。「お待たせー。あれ、それなあに」ユウキは、何か丸い......

  • 小説
  • 掌編
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-07-05

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