地球よいとこ、一度はおいで

 ほう、あんた、地球旅行は初めてかの。わしはもう三度目じゃ。到着まで、まだ時間がかかるから、わしがいろいろ教えてやろう。
 そりゃあ、面白いところじゃよ。なにしろあの狭い惑星に、何百万種もの生物がひしめき合っておるんじゃからなあ。宇宙広しといえど、こんな見たことも聞いたこともないような珍しい動物がわんさかおる惑星なんぞ、滅多にないぞ。しかも、そんな状態が、もう何億年も続いておるというから驚きじゃ。
 いや、本当じゃよ。ちょっとこのタイムスコープを覗いてみるがいい。ここのツマミを、一億年以上前にセットしてごらん。ほれ、これが有名な恐竜じゃ。どうじゃ、すごい迫力じゃろう。残念なことに、六千万年も前に絶滅しちまったらしいがね。
 ああ、もちろん、今だって大きな動物はいくらでもおるよ。例えば、クジラとかゾウとか。え、大きいのには興味がないのかね。へえ、知りたいのは知的生物ねえ。ああ、おるとも。ニンゲン、というのがそうじゃ。
  なんじゃって、接触したいじゃと?
 うーん、それはやめた方がええよ。これは、生物圏が豊かなことのマイナス面じゃが、なにしろバイキンが多いんじゃよ。ニンゲンなんて、バイキンが服を着て歩いてるみたいなもんじゃ。あんたは知らんじゃろうが、今まで地球がどこの惑星にも征服されなかったのは、実は、あまりにも不潔だからなんじゃ。
 わしのおすすめは、一人用の調査艇に乗って、上空から観察することじゃな。まあ、時々ステルスモードにするのを忘れるヤツがおって、UFOじゃなんじゃと騒ぎになるがの。
  えっ、精神的な接触だから、細菌感染の心配はないと。ほう、テレパス種族かね。それはおみそれした。じゃが、それもあんまり、おすすめはせんなあ。
 これだけ生物が多いということは、その分、生存競争が激しいということじゃ。その厳しい闘いを勝ち抜いてきたニンゲンが、純真無垢な心のわけがない。ねじくれ、ひねくれ、ヘソが曲がっておるに決まっておる。そんな相手と心を接するというのは、素っ裸でドブ池にダイビングするようなもんじゃぞ。
 へえ、自分は芸術家だから、むしろそういう心の方が興味があると、そう言うのかね。まあ、承知の上でやるのなら別に止めはせんが、深入りはせんことじゃ。テレパス種族が相手に同情し過ぎると、心が融合して離れられなくなるそうじゃないかね。
 そういえば、昔、ニンゲンを憐れむあまり、合体して自ら地球に残ってしまったテレパス族がいるというウワサを聞いたことがあるぞ。確か、ブッダ、とかいう名前じゃった。あんたも、気をつけなされよ。
(おわり)

地球よいとこ、一度はおいで

地球よいとこ、一度はおいで

ほう、あんた、地球旅行は初めてかの。わしはもう三度目じゃ。到着まで、まだ時間がかかるから、わしがいろいろ教えてやろう。そりゃあ、面白いところじゃよ。なにしろあの狭い惑星に、何百万種もの生物がひしめき合っておるんじゃからなあ。宇宙広しといえど......

  • 小説
  • 掌編
  • SF
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-06-18

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