あなたは『決して開けないでください』と書いてある箱を持ったまま、開けるべきか否か、すでに十分ぐらい悩んでいた。配達してきたのは大手の宅配業者であり、宛先はあなた本人に間違いないので、よく確かめもせずに受け取ってしまった。差出人はメテウス商会......
つまらぬことで上司とケンカになり、小野寺隼人は会社を辞めた。やたらとプラス思考の話をし、自分の考えを押し付けてくるイヤな相手だったが、二十九歳にもなって大人げなかったと、今では反省している。七十歳の定年までに何度か転職するのが当たり前の時代に......
城島が住民票の転入出届を入力していると、市民課の課長から、ちょっと来てくれと電話があった。作業を中断し、城島は課長室に行った。「何でしょうか?」眉間にタテジワを刻んで書類を睨んでいた課長が、顔を上げた。「おお、呼び出してすまん。急な話だが......
最初にハリネズミの異変に気付いたのは、父親の高田の方だった。「おーい、祐美、ちょっと来てくれ」パタパタと階段を上がって来た大学生の祐美は、口をとがらせた。「もう、パパったら、勝手にあたしの部屋に入らないでよ」「掃除のついでさ。それより......
最近の三十代の女性には珍しく、庄司朝子は全く酒が飲めなかった。なので、会社の同僚たちから飲みに誘われても極力断っている。同じ課の今村美穂からは、せっかくの婚活のチャンスを逃すなんてもったいないとか言われるが、そんなチャンスなどいらないと……
某テレビ局の裏口。人目を忍ぶように中年の男が入って来ようとしたところを、入口の前に立っていた警備ロボットが制止した。《身分証を呈示してください》男はムッとしたように、ロボットの腕を振り払った。「何しやがんだ。おれだぞ、おれ。『奥さまのアイドル......
「おい、ここはどこだ?」隣に座っていた上司の寺島に肩をゆすられ、相川はハッと目を覚ました。特急列車の揺れが心地よく、いつの間にか眠っていたらしい。「えっ、あっ、ちょっ、ちょっと、待ってください」客車の前方にある電光表示で次の停車駅を確認すると......
「おい、もう一週間以上続いてるな。牧田、病院に行った方がいいぞ」部長の広野にそう言われ、牧田は自分がまた咳込んでいたことに、ようやく気づいた。「すみません、うるさかったですか?」広野は仕事の手を止め、牧田の席まで歩いて来た。「そんなこと......
某ホテルの大理石のロビー。夜も遅い時間なので客は少なく、閑散としている。その奥まった一角に作られた、ロープを張ったポールに囲まれた数メートル四方のスペースの中に、二人の男が立っていた。手に三十センチぐらいの円盤状の機械を持った作業服の男......
高校生になってから、なんとなくパパとは距離ができた。だから、いきなりこう言われたときは、正直驚いた。「詩織、おれがゲームを始めるとしたら、何からやったらいい?」「へえ、パパもゲームやるんだ」パパは渋い顔になった。「これも仕事のうちさ......