パパがゲームを始めたら
高校生になってから、なんとなくパパとは距離ができた。だから、いきなりこう言われたときは、正直驚いた。
「詩織、おれがゲームを始めるとしたら、何からやったらいい?」
「へえ、パパもゲームやるんだ」
パパは渋い顔になった。
「これも仕事のうちさ。今度の取引先の部長が、今流行りの、ええと、あれだ、ネトネトゲー廃人らしい」
まったくもう、どこでこんな中途半端な知識を仕入れて来たんだろう。
「せめて、廃人は付けない方がいいよ。そうねえ。まあ、無難にスーパーまりもとか、蟹コレとか、桃ハンとか、かな。でも、パパにはムズイかも」
「何を言う。これでも若い頃は、インベーダーの達人と言われたんだぞ」
パパが昔、ゲームをやったことがあるというのは、あたし的にはちょっと意外だった。テレビはニュースしか見ないし、新聞は経済面しか読まないし、パパの唯一の趣味といえば、庭の草むしりなのだ。
だが、こういうヒトがゲームにハマってしまうと、それこそ廃人になるまでのめり込んでしまうかもしれない。あたしは、パパが夢中になり過ぎないようなゲームはないか、がんばって考えてみた。
「それじゃ、ストレートファイターなんかいいかも。バトル系で簡単だし」
「まあ、それでいいよ。とりあえず、話題が途切れたときのネタになればいいんだ」
最初はそんなこと言ってたのに、あたしの予想どおり、パパはすぐに夢中になった。会社から戻るとすぐに始め、食事と入浴の時間を除けば、寝るまでやり続ける毎日。ママからは、詩織のせいよ、と怒られてしまった。
いよいよ明日はそのお得意さまに会うという夜には、念のため、他のゲームについても簡単にレクチャーしてあげた。
「ありがとう、詩織。これでバッチリだ」
パパのやる気満々な顔を見て、あたしはちょっと不安になった。
翌日、仕事から戻ったパパは、見る影もなく落ち込んでいた。
「どうしたの、パパ。うまく行かなかった?」
「あ、いや、うまく行った。話がはずんで、じゃあ、実際にゲームをやりましょう、ということになった」
「良かったじゃない」
「それが、良くなかった」
「え、負けちゃったの?」
「最初はね。でも、悔しくて、悔しくて、その後、コテンパンにやっつけてしまった」
あたしはパパの背中をポンとたたいた。
「パパは、我が家一番の誇り高き戦士よ」
(おわり)
パパがゲームを始めたら