哲也は週に2回ほどSCのアルバイトをしている。SCというのはサービスクリエーターの略とのことで、要は、ホテルや結婚式場などの配膳係のことである。確かに、フリーペーパーに「配膳係募集」と書くより、「君もサービスクリエーターの仲間に…
「核兵器がダメになってるって、いったいどういうことよ!」この国初の女性大統領がそう叫んだのは、外部から完全に隔離された秘密会議室の中だった。大統領の前にいるは、制服を着た恰幅のいい初老の男と、背広を着た老人である。制服の男は困ったように...
惑星フローラに単身赴任することになって一番落胆したのは、園田本人より妻だった。「あんなド田舎の惑星に左遷されるなんて、あなた、いったい何をやらかしたの?」「別に思い当たることはない。単に順番だろう」「そんなことあるもんですか…
考えても考えても新しいアイデアが浮かばないので、今回は私小説を書こうと思う。専門家からは、こんなもの私小説じゃないと怒られるだろうが、作者であるわたし自身が主人公の小説なのだから、これを私小説と言わずに何と言うのだろう…
CMが終わり、番組のタイトルが表示された。『第一回 輝け!超能力者マージャン大会』スタジオの中央にマージャン卓が据えられ、それを囲むように観客席がしつらえられている。すでにマージャン卓には四人の男たちが座っており、その横に派手な蝶ネクタイの…
老夫婦の元に、あのツルが戻って来た。以前、自らの羽根を抜いて布を織った為に地肌が見えていたが、その代り筋骨隆々な姿になっていた。「おまえ、随分たくましくなったねえ」 媼にそう言われると、ツルはニッコリ笑って力こぶを作って見せた…
最近、夫の挙動が怪しい。わたしに結婚してもらった恩を忘れ、浮気などしていたら即刻離婚してやる。現代は女性優位の時代だ。総理大臣を始め閣僚はほぼ全員女性、上場企業のトップも大半が女性で占められている。そんな時代に、わたしのような輝かしいキャリアの…
たとえ自分の意に沿わない部署であっても、人事異動は拒否しないのがサラリーマンの心得である。それを断わるなら、辞める覚悟をしなければならない。『社史編纂室勤務を命ずる』という辞令を見ながら、栗本は頭の中で転職先を考えていた…
「お会計は五万七千八百九十二円になります」「えっ!」 渚は改めてスーパーのカゴの中身を見た。夫の恵介の給料日だから、久しぶりにすき焼きでもしようと材料を買ったのだが、うっかりして無広告の肉を入れてしまっていた。恥ずかしいが商品を交換するしか...
ネットカフェやマンガ喫茶はいつも混んでいるので、直樹はよくブックカフェを利用する。一般的には書籍全般を扱うところが多いが、この『カフェ図書委員』は小説限定の店であった。ここなら料金も格安だし、何しろ空いている。おかげでゆっくりできる、と言いたいところだが...