観光マナーを守りましょう
『書記長室』と書かれた部屋のドアがノックされた。
「いいぞ、入りなさい」
「書記長、失礼いたします」
「ああ、おまえか。今度はどんな揉め事だ?」
「用件が揉め事だと、よくおわかりになられましたね」
「これだけ続けば、わしだってわかるわい。で?」
「またしても、観光マナーの問題です」
「何だと。それはだいぶ改善されたと聞いておるぞ」
「さようですが、一部の団体旅行で違反がございまして」
「また団体旅行か。何をした?遺跡でもブッ壊したか」
「まさかまさか。いくらなんでも、そこまではしません。禁止区域に大挙して押しかけ、住民を怯えさせてしまったようです」
「まったく、困ったものだな。で?」
「住民の騒ぎがなかなか収まらず、大変な事態になるかと心配しましたが、そこはまた、例の手で」
「そうか。現地に潜り込ませている工作員が役に立ったのだな」
「はい。一応、現地の映像をご用意しましたので、こちらをご覧ください」
「ふむふむ。ほう、だいぶ大騒ぎになっているな」
「ええ。画面の下の方に『昨夜、世界中の主要都市でUFOが目撃された!』という文字が見えますね。現地の住民は、我々の旅行用小型宇宙船をUFOと呼ぶんです。でも、ご安心ください。例によって、専門家に化けた工作員が『これは広告用の飛行船だ』とか『誰かがイタズラで飛ばしているドローンだ』とか言って、うまく誤魔化しましたので」
「よくやった。それにしても、我が惑星の者どもは、なぜ地球のようなド田舎に行きたがるのかのう」
そう言うと、書記長は六本の腕を組んだ。
(おわり)
観光マナーを守りましょう