私小説始めました
考えても考えても新しいアイデアが浮かばないので、今回は私小説を書こうと思う。
専門家からは、こんなもの私小説じゃないと怒られるだろうが、作者であるわたし自身が主人公の小説なのだから、これを私小説と言わずに何と言うのだろう。
だが、リアルな自分のことなど、ほとんど書いたことがないので、何をどう書けばいいのかさっぱりわからない。ともかく、今日の出来事を時系列で書いてみるか。
わたしは朝起きた。顔を洗って歯を磨き、髭を、あ、いや、ちょっと待て。
わたしのプロフィールは、年齢性別不詳ということにしている。ここで髭を剃ったりしたら、男性であると言っているのと同じだ。それでは、覆面レスラーが覆面を脱ぐようなもので。あれっ、これは違うな。レスラーが覆面をしていても、性別はわかるか。うーん、まあ、いいだろう。
とにかく、朝飯を食おう。わたしは納豆が好きで、ほぼ毎日。あっ、待てよ。納豆を食べる習慣がない地方の出身ではないことがバレて、いやいや、推測されてしまうな。まあ、何かを食べたんだということぐらいにしておこう。
それから、車で職場に向かって。あーっ、ダメだ、すごく限定されてしまう。職場に向かう、というからには学生でも専業主婦でもなく、車を使うほど職場が遠いところにあるから、農家や自営業ではないことになる。
どうしよう。そもそも、年齢性別不詳の私小説なんか成立しないのだろうか。それとも、もっと曖昧に書いてみたらいいのかもしれない。
わたしはあれに乗ってそこに向かったが、渋滞で全然進めない。このままでは、そこの始まる時間に間に合わず、誰かさんに大目玉をくらってしまう。この辺りから脇道に入って、住宅街を抜けた方がいいだろう。
ダメだダメだ。まだ具体的な言葉が多すぎる。そうだ、いっそ、伏字にしよう。
わたしはジグザグに◯◯を通り抜け、ようやく◯◯に着いた。朝のミーティング、あ、いや、朝の◯◯には、何とか間に合った。さあ、今日こそは、◯◯を◯◯するぞ。◯◯だからな。
ああーっ、もう!ここはどこ?わたしは誰?
(おわり)
私小説始めました