まこん

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三題噺「魔神」「ローズマリー」「エンドレス」

「そこのお前、叶えてほしい願いはあるか?」 ある日、私の前に現れた魔神が言った。 私は言った。 「あるわ。でもあなたにそれができるかしら?」 魔神はその言葉に機嫌を損ねた。 「ああ、できるとも! 今のわしにはどんな願いも叶える魔力があるからな!」

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三題噺「市場」「メロンソーダ」「廃車」(緑月物語―その4―)

「酒野よー! どうしてこんなことになっちまったんだ!」 流れていく街並みを横目に、整備科志望で同じ班の森本健司が涙目で叫ぶ。 「それを俺に聞くのか! 気まぐれでお前があんな廃車を直したからだろ!」 森本の隣の助手席に座る修一が、右へ左へ体を振り回されながらも怒鳴り返す。 二人は今、宮都の旧市街をオンボロの旧型リニア自動車で疾走していた。

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三題噺「新築」「新天地」「趣味」(緑月物語―その5―)

神樹友紀子は特殊な女の子だった。 長い黒髪に強い意志を秘めた瞳が印象的な娘――。それが森本健司が彼女に抱いた第一印象だった。 「神樹。お前――、一体どうしてここに?」 彼女の周りには複数の男たちが気を失って倒れている。 それは、今しがた森本とそのクラスメイトの酒野修一を襲っていたチンピラだ。 校外学習中に森本と酒野は、ちょっとしたトラブルに巻き込まれた。そのピンチに神樹がタイミング良く駆け付けたというわけだ。 「教官の命令だ。お前たちを教官の元へ連れて行く」 「命令って――うっ……、わ、わかったから落ち着け。な?」 その目には有無を言わさぬものがあった。 森本と酒野は、大人しく連行されるしかなかった。

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三題噺「携帯灰皿」「モニュメント」「田舎」(緑月物語―その6―)

「……あれか」 ゴーグルをつけた黒いスーツの男が、林の中で宙に浮いていた。 ――まるで、足元に何か大きい物体があるかのように。 「潰してやる……」 男が吸っていた違法煙草を携帯灰皿に入れる。すると、その直後突然その姿が消えた。 周辺には先ほどから何かの機械音が断続的に聞こえている。 そしてその音は、その音は点在する林のはるか彼方、こちらに向かってくる一台の小さな車の元へと離れていった。

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三題噺「メイド服」「喫茶店」「女子高生」

――俺は夢を見ているのだろうか。 目の前では、小柄でショートヘアのメイドが優雅な仕草でコーヒーを入れている。 「さ、どうぞお召し上がりください」 微笑みを投げかけるメイド服姿は、まるで店内に咲く一輪の花のようだった。 ――しかし、こいつは……。 「どうかされましたか、ご主人様?」 微笑を絶やさない従者喫茶の店員が問いかける。 いや、だってさぁ。 「お前……男、だよね!?」

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三題噺「弁当」「歯車」「ガードレール」(緑月物語―その7―)

「あれ? 先生もしかしてダイエっとぉおぅうぐばぁ!」 呼吸するように暴言を吐く間宮の顎を、ノーモーションで振り上げた小型空気圧縮砲の銃身が跳ね上げる。 「相変わらず神経を逆なでする奴だな、お前は」 ついジト目で睨むも、間宮にはあいにく逆効果だ。 「あぁ、その冷たい視線! 体が焼けるように熱い!」 「やめろ」

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三題噺「トゲ鉄球」「ハヤシライス」「チェックメイト」

「――空気中の水分を捕捉。コアを中心とした指定空間への固定、あと二秒です!」 相手のサポーターが宣言した直後、ゾクッとした悪寒がする。 「清純、そこ離れるヨ!」 無表情の蓮花が鋭い声を上げると共に、空中に向けて十数枚の味見皿を投げつける。 清純がバックステップをとってその場から離れるのと、空中の味見皿が全て粉々に砕け散るのは同時だった。 辺りには砕けて舞い散る味見皿と氷柱の欠片。地面には無数の黒い玉が転がっていた。 「……防弾にもなるポリカーボネートの皿を砕くなんて、とんだふざけたトゲトゲ鉄球ネ」 感情を顔に表さない蓮花が、眉一つ動かさず悪態をつく。

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三題噺「夏日」「万有引力」「ベートーヴェン」(緑月物語―その8―)

「――関東地方南部は北の風のち南の風、一日中快晴で昨日に引き続き真夏日となるでしょう。次は明日以降の一週間の天気――」 校庭脇の並木道で、数えきれないほどのセミのオスが鳴いている。 そんなメスの気を惹くための全身全霊、命を削った鳴き声の大合唱が響く中、教室で酒野修一は電子ペーパーに映し出された補習問題とにらみ合っていた。

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三題噺「レバ刺し」「陰謀」「まがい物」

「思えば短い人生だったな……」 自宅の隣に作られた倉庫の中、天井から吊るされたロープには頭一つ分通るだけの輪っかができていた。 半年前、私は裁判に負けて損害賠償という名の借金を背負うことになった。 私の工場で作った食品を食べて、子どもが事故死したのだ。 マスコミには散々叩かれた。「有志」と名乗る集団には、私の顔から住所まであらゆる個人情報をインターネットの掲示板に晒された。 これ以上は無理だ。だから私は自ら死を選ぶことにした。

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三題噺「浮き輪」「スプーン」「残骸」(緑月物語―その9―)

何かがおかしい。 永田麗美が異変に気付いたのは宮都中心部にある広場に着いた時だった。 警察官が慌ただしく連絡を取りながら、落ち着きもなく何かを探しているようだった。 「おい、どうかしたのか?」 突然話しかけてきた相手に童顔で幼さの残る警察官は一瞬警戒する気配を見せたものの、永田の胸のバッジを見てヤマトの関係者と悟ったようだ。 「いえ……実は宮都に爆弾が仕掛けられたらしくて。今、宮都の警察官を総動員して捜索にあたっているところです」 なんともキナ臭い話だ。確かに見渡せば普段の倍以上の警察官の姿が見える。彼もその一人なのだろう。 「爆弾の形状と大きさは? うちの学生たちにも探させるよ」 「え、あ、は、はいっ! えーっと、形状とサイズですが……」 するとそこで童顔警察官は押し黙った。視点は永田の後ろを見ている。心なしか顔が真っ青に見える。 「あ」 「あ?」

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