三題噺「白木の杭」「一目惚れ」「白いワンピース」
それは光の矢のように見えた。
腹の底から響くような轟音。
とっさに腕で顔を庇うが脇ではじけ飛んだ木材の破片が体中を切り刻む。
「ぐぅああああぁ!」
衝撃で数メートルは飛ばされただろうか。それでもすぐにその場から転がるように飛びのく。
瞬間、白い棒状のものが今までいた場所に突き刺さる。再び襲い掛かってくる木材の破片を京介は地面に伏せることで何とかやりすごした。
「小僧、どうだこの吸血鬼さえ屠る白木の杭の威力は」
男は祭壇の前に浮かんでいた。とんがり帽子を目深に被った長身の男は、京介に聞こえるよう廃教会に響き渡る声で言った。所々崩れ落ちた屋根の隙間から月の光が男と祭壇を浮かび上がらせている。
「そのまま消えろ、凡人。邪魔をするのなら体中に大穴をあけて殺してやる」
そう言いながら男は黒いマントを翻すと、祭壇の十字架に縛り付けられた少女へと手を伸ばす。
顔をつかまれた少女の顔が苦悶にゆがみ、暴れる彼女の白いワンピースが月の光できらめいた。
「やめろぉおおぉ!」
一目惚れした少女を守るため、京介は体を寄せている長椅子の影から叫ぶとその先にある懺悔室に飛び込んだ。
懺悔室に飛び込むと同時に後ろで響き渡る轟音。おそらく長椅子が奴の白い杭で粉砕された音だろう。この場所も間もなく木っ端微塵にされてしまう。痛みで感覚が失われた体は思うように動かないし、京介に残された手はもはや一つしかなかった。
「小僧、どうやら死にたいらしいな」
男が片手を上げると、何も無いはずの空間から何本もの白い杭が出現する。
「死ね」
教会が揺れるほどの衝撃。懺悔室が木材の破片へと姿を変える。
――そこに京介の姿はなかった。
男から余裕の表情が消えた。白い杭が手当たり次第に長椅子を粉砕していく。
「小僧! どこへ行った!」
危機感を募らせた男が十字架を振り返り、少女を手に入れるべく腕を伸ばす。しかし――、
男の腕が少女に届くことはなかった。
ひじから先のない腕を見る男は、あるべきものがない腕を不思議そうな目で見つめている。
「……小僧、貴様一体何をした?」
遅れてやってきた痛みに顔をしかめた男が、目の前の銀髪に問いかけた。
「何も。ただお前の腕を軽く払っただけだ」
この姿に戻る気は二度とないと思いたかったんだけどな、と京介は自嘲するように答えた。
「……ふっ、ふひゃはははははははははははは!」
男は狂ったように笑い出す。それが自らの敗北を悟ったせいなのかはわからない。
「その姿! そうかそうか! 貴様、人狼だったのか! ひゃははははははは!」
そうだ、と京介は暗たんとした目で言うと、
「もうお前には関係のない話だがな」
腕を振るって男の体を引き裂いた。
三題噺「白木の杭」「一目惚れ」「白いワンピース」