1860年 二十歳のオディロン=ルドンは、知己の植物学者の顕微鏡で、現在のタジキスタンに分布する龍舌蘭を観察していた。その根についていた「砂」が、ルドンの眼におぞましい世界を見せたようだ。1878年「眼-気球」という黒一色の絵以後30年にわたり、ルドンの絵画から色が消えた。
それは、単なる暇つぶしのはずだった。だが、クロスワードパズルに秘められた可能性は、彼女の世界を激震させかねない巨大なものだった。療養中の男は、たいていの暇つぶしに厭き、クロスワードパズルに到達した。彼の容態を見舞う彼女に語られたその研究成果は、その可能性の中心を射抜き、たちまち彼女を虜にした。彼女に示したクロスワードパズルの本当の力。そして彼女は、彼がクロスワードパズルについて語り続ける真意を知ることになる。
失恋した男が梅雨空の古刹、陰花寺懸想黄泉路第二六番札所で出会った一人の武闘派少女。敵か味方か?そもそも何の戦いなのか? そんな疑問は置き去りのまま、男は少女の戦いに巻き込まれ、怪しげな快感さえ感じるのであった。巻末にアウトかもしれない付録を収める。
「縁側へいきます。お部屋を汚してしまいますから」 「縁側へ?」 男は女の手をとったまましばらく考えていた。その様子に、女は動悸を感じた。 「それをこちらへよこしなさい」 女は男に叱責されたと思った。この西瓜は汚れているから、この人は私を家に上げたくないのだ。そう思った。女の膝から力が抜け、男の胸に倒れこむ。男はとっさに身体を支える。そして女の首筋に口づけをする。 「恐ろしいのかい?」 青ざめる女の顔を見ながら、男はささやく。
男は帰省するため電車に乗り、女に出会う。二人はアバンチュールに身を委ねる。宿の若女将と女の夫をも巻き込んだ逃避行は、翌日の、フリーマーケット会場に収斂した。偶然の出会いが連鎖して、必然の関係が壊れるとき、それぞれが、それぞれの還るべき場所を見出す。