一年分の収入で連泊可能な宿泊施設を探し、全額を前払いして暮らす、住所不定の作家、戸五指久義。宿泊施設から全く外出せずに書き続ける彼のルーツを探る。
失恋した男が梅雨空の古刹、陰花寺懸想黄泉路第二六番札所で出会った一人の武闘派少女。敵か味方か?そもそも何の戦いなのか? そんな疑問は置き去りのまま、男は少女の戦いに巻き込まれ、怪しげな快感さえ感じるのであった。巻末にアウトかもしれない付録を収める。
「縁側へいきます。お部屋を汚してしまいますから」 「縁側へ?」 男は女の手をとったまましばらく考えていた。その様子に、女は動悸を感じた。 「それをこちらへよこしなさい」 女は男に叱責されたと思った。この西瓜は汚れているから、この人は私を家に上げたくないのだ。そう思った。女の膝から力が抜け、男の胸に倒れこむ。男はとっさに身体を支える。そして女の首筋に口づけをする。 「恐ろしいのかい?」 青ざめる女の顔を見ながら、男はささやく。
男は帰省するため電車に乗り、女に出会う。二人はアバンチュールに身を委ねる。宿の若女将と女の夫をも巻き込んだ逃避行は、翌日の、フリーマーケット会場に収斂した。偶然の出会いが連鎖して、必然の関係が壊れるとき、それぞれが、それぞれの還るべき場所を見出す。