毎朝二時間ほど散歩をしている老人が語る。
「心の襞一枚一枚に染み込むような感じ方がいいですなあ。そういう味わい方ですよ」
「ああ、知り合いのグラフィックデザイナーから聞いた話なんだが、羊羹の好きな画家なんだ」
「今日は暖かいですなあ」
ビルの屋上で二人の勤め人が昼を食べている。
「秘境って町の中にあるんでしょうねえ」
「さて、今日はどんな風景を見ようか」
「明太子がないようだが」
知人訪問好きマニアの木下は、文学青年の青木を訪ねた。文学青年も死語だが、それにふさわしく下宿屋という死語の世界に住んでいた。
訪問好きの木下は、最近頻繁に文学青年の下宿を訪ねている。