一寸先は闇
あることはふと起こり、そしてふっと消える。予測なしに起こり、予測なしに終わる。これがリアルな世界だろうと竹田は考えた。人知などたかが知れたもの。天気予報のように当たらない。後で、終わったことをくどくどと辻褄が合うように説明する程度。ただ、この説明が興味深いこともある。それを今後に役立てようとしても、これもまた終わった後での説明に役立つ程度だろうか。
と、竹田が思うのは、出来事はいきなり来ることが多いためだ。
「未来予測かね、竹田君」
「未来にもいろいろありますから」
「ほう、たとえば」
「それは、何かについての未来です。だから、未来はいっぱいあると」
「そうだね。まあ、それを言い出せば、一寸先は闇だよ」
「まさにその通りですねえ」
「まあ、この世は闇と言ってしまえば身も蓋もないがね。やはりそこに光を通したい。見えている部分をね。闇の中のほんの僅かな一筋の光だ。ただ、その見えているものさえ、闇に隠されたものの影響を受ければ、儚いものかもしれんねえ。脆くも崩れ去る」
「それは、予測していたスポット的な事柄も、その頃になると、もう他のことで時代背景が全く違ってしまっていたというような話ですか」
「それもあるねえ。しかし駄目だろうと予測していたものが助かることもある」
「じゃ、予測とは何でしょうか」
「まあ、ないよりまし程度だろう。多少の目安は必要だろう」
「目安ですか」
「目を休めるようなものさ。予測が付いているので、安心して見てられるんだろう。良いことでも悪いことでも」
「それも実は危ないんですよね」
「それを言っちゃ、全部が全部そうなんだから」
「一寸先は闇」
「そうそう」
「悪いことはいきなり来ますねえ。良いこともいきなり来ますが」
「そういうふうに見えるんだろうねえ。まあ、最初から決まっていたことじゃないだろうけど」
「そうですねえ。運命なんて神様にも決められないですよね。特に個人的な話になると、いちいち神様も操作出来ないですし。担当の神様が足りないでしょうねえ」
「ははは、そうだね」
「成るように成るはずのものも、時代がほんの少し早いか遅いかだけで成しえないこともある。まあ、それは言い古された文句だがね」
「結局一寸先は闇に落ち着きますか」
「そうも言っておれんでしょ竹田君。やはり何かやらないとね。先を見越しながら。そうでないと、何も出来なくなりますぞ」
「そうですねえ」
「まあ、君の研究もどうなるものかは分かりませんが、やるだけやってみなさい」
「はい」
了
一寸先は闇