左右から手が差し伸べられている。どちらを選べばいいのかなんて、はじめから知れていたというのに、どうしておれは迷ったりしたのだろう。
私は、女優になりたい。女優にしかなりたくない。
胸の内にある往生際の悪いものを振り切るように。
彼の腕の中で考えていることは一つじゃない。
目に映える赤いワンピースが印象に残っていた。
水滴がスカートの裾について、模様みたいだった。
この胸の内にわだかまるいらいらをどうにかしたくてしょうがない。
私を好きだと言って。私をかわいいと言って。先輩がそう言ってくれるように願う、願ってやまない。
房子は凶器に刺し貫かれる悪夢にここのところ悩まされていた。そんな精神状態の彼女は年下の大学生、宏之と出会い、互いに惹かれ合う。房子には夫がありながら。
たとえどんな返事が来ようとも、その言葉をすべて聞き終える前にその唇を塞ぐつもりだった。