恋とはどうしようもなく落ちるものだ。誰かを途方もなく愛おしいと想ってしまうときに、理屈はいらない。あなたを目の前にして、私の心は静かに、それでも確かにときめいている。
ときたま吹く風でワンピースがふわりと揺れる。主張しすぎないピンクパープルで、私のお気に入り。足元はウェッジソールを履いているが、勇壮に歩いていく。
曲は、モーツァルトの『アイネ・クライネ・ナハトムジーク』。言わずと知れた名曲。彼女は音の流れに寄り添うように、内側にある凝り固まったものを解き放つように、緩やかに体を揺らして、弾いた。
背中越しの声に、しばらく身動きが取れなかった。どんな顔をすればいいのか分からなかった。声の調子からは、竹早君が怒っているのかどうかも判断できない。