高等戦術
おばあさんからもらったキビ団子でイヌとサルを家来にした桃太郎は、これで充分鬼と戦えると考えた。そこで家来探しの旅を中断し、さっそく鬼ヶ島へ行く船の準備を始めた。
すると、そこへ一羽のキジが飛んで来た。
「ちょっと、桃太郎の旦那。話があるんでやんすが」
「またにしてくれ。今は船の準備で忙しいんだ」
「ああ、準備をしながらでよござんすよ」
「じゃあ、手短にな」
「へいへい。小耳に挟んだんでやんすが、鬼退治に行かれるってえのは本当でやんすか」
「そうとも。村人たちから財産を搾り取り、私腹を肥やしている鬼どもに、正義の鉄槌を下してやるのだ」
「ごもっとも、ごもっとも。ですが、聞くところによると、家来はイヌとサルだけとか」
「充分だろう。イヌは忠実だし、サルは賢い。そして、自分で言うのもなんだが、おれは剣豪だ」
「うーん、惜しい」
「え、何がだ」
「旦那は確かにお強い。二匹の家来もまあまあでしょう。しかし、今の時代、戦いの趨勢を決めるのは情報ですぜ」
「ジョ、ジョウホウってなんだ」
「まあ、例えば、敵がどこにどの程度いるかとか、どんな武器を持っているかとか、そういうことを知らずに戦うのと、知っているのとでは、結果に大きな違いが出るってこってすよ」
「へえ、そうなのか。だが、どうやって相手のジョウホウとやらを調べるんだ」
「さあ、そこであっしの出番でやんす。どれほど城壁で周囲を固めても、空からは丸見えなんすよ」
「なるほど、一理あるな」
「一理も二理もありまさあ。その上、あっしは空から攻撃できるんです。家来にしない手はありやせんぜ」
「そうだな。うん、家来にしよう。ほら、キビ団子だ」
キジを家来に加えた効果は確かにあり、桃太郎たちは大勝利を収めた。
だが、戦いを終えた一行が港に停泊していると、大勢の白い鳥が飛んで来て、積んでいる財宝を根こそぎ奪って飛んで行ってしまった。
空っぽの船倉に落ちているキジの着ぐるみを見て、桃太郎は叫んだ。
「しまった!キジだと思っていたら、サギだったのか」
(おわり)
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