師匠と弟子
「なんじゃ、これは!」
ガチャンと何かが割れる音。
「申し訳ありません、お師匠様」
師匠と呼ばれた老人は顔を真っ赤にし、肩で息をしている。
「おまえはわしの教えを忘れたのか。こんな下品なものを作るとは。ああ、情けない。もう、おまえは弟子でもなんでもない。すぐにここから出て行け!」
「ですが、お師匠様」
「ええい、言い訳など聞きたくない」
プイッと背を向けて立ち去ろうとする師匠に、なおも弟子は取り縋った。
「お師匠様、どうかお聞きください。確かに、お師匠様の器は芸術です。躍動感にあふれ、神秘的ですらあります。しかし、庶民には、もっと実用的な器も必要なのです」
師匠は振り返って弟子を睨みつけた。
「ふん、実用じゃと。それは逃げじゃ。わしのような器を作る才能も根気もない、おまえのような怠け者の言い訳にすぎん。その上、楽をするためにこんな道具まで使いおって。おまえの作った器はなんじゃ。手抜き以外の何ものでもないわ」
弟子はがっくりとうなだれた。
やがて、顔を上げ、師匠に詫びた。
「申し訳ございませんでした。これからは心を入れ替え、お師匠様のような芸術的な器を作るよう精進いたします。何卒、修行を続けさせてください」
「うーむ、わかった。じゃが、修行は厳しいぞ」
「はい、覚悟しております」
師匠と弟子は手を取り合った。
その後、弟子が発明した新しい道具『ろくろ』は捨てられてしまった。そのため、さらに千年、縄文式土器の時代が続くことになった。
(おわり)
師匠と弟子