「どうですか最近、妖怪は」 妖怪博士付きの編集者が様子伺いに来ている。
「ウエストバッグが欲しいんだが、君はどう思う」
窓辺からずっと見ている。三階の窓だろうか。三階部は三角屋根だ。屋根裏部屋だろう。
二つの町を区切っている幹線道路沿いにある喫茶店での会話だ。
その日も木下は散歩に出た。ところが、いつもとは様子が違う。
箸を持ちながら箸を探す。メガネを持ちながらメガネを探す。自転車に乗りながら駐輪場の自分の自転車を探す。
「妙な占いをされると聞いて、やって来たのですが」
あることはふと起こり、そしてふっと消える。予測なしに起こり、予測なしに終わる。
毎日似たような暮らしぶりをしていると、たまに目先を変えたくなる。一番効果的なのは旅行だろう。
「あれは今年の夏だったかなあ。いつもより暑かったねえ。そのとき見たんだが、あれは何だったのだろう」