揺れる小さな花を見ていると、ふーと、そこに白い服を着た少女が立っていた。
今は住宅地で、何丁目何番地になっているが、昔は里山だった。その斜面に今も残っている神社がある。
暑い夏が今年もやってきた。墨田は夏の過ごし方を子供時代に戻している。
高橋は山道を歩いている。標高は高くないが懐が深い。
魔玄岳と呼ばれる山がある。ただ、地図では別の名になっている。つまり魔玄岳は通称なのだ。
「寺や神社以外に何か他にありませんか」
真夏の昼下がり、通りには人っ子ひとり出ていない。
「晴れて、暑い日の方がいいのかもしれんなあ。こうして木陰に入っても、日が差さんことには日陰も出来ん。従って木陰も出来ん。だから、この木の下にいることは、無駄ではないかと思うのだが、どうだろう」
「暑い日は体がえらいですわ。体が偉人なわけじゃないがね」