蒼鉛色の空から落ちてくるみぞれ雪が、バス停に待つ人々の傘と、我が主の帽子と肩を容赦なく濡らす。 街灯は、色とりどりの傘の花の中で、濡羽色になった帽子のつばに眼差しを隠す主を舞台の主役のように青白く照らし、そこへみぞれ雪が冷たく重く、降り積もる。 降る雪の音は聞こえず、行き交う車と人々が氷混じりの泥水を踏み潰し跳ね上げる音が、主の口元を石のように硬く閉ざさせる。
街にはことり箱があった。ことり箱はピーチクパーチク騒がしい。だけど、街のみんなはことり箱を愛している。ことり箱があってのこの街だから、ことり箱あっての僕らだから。僕らは共に目覚め、共に出かけ、共に眠る。幸せは小鳥たちが運んできてくれる。大量の雨と共に。
越してきた家の隣の家族は、皆赤い顔をして蒸気をだしている。誘われてその家でお茶を飲んだら自分はどうも彼らの仲間になったようだ。
七五調の文体で書かれたお皿が主人公の短編の童話。童話風の作品ではなく純正の童話です。歴史も踏まえて書かれていますが、特に時代物という要素はなく伝奇性はありません。読後感の温かくなる様なハッピーエンドの作品です。