一話完結です。「とても大きい。こんな大きさ,月のときでもならない。それに,形が変だ。 私はオフショルダーの水着姿で,胸を見つめている。その胸が突き出ている。カップがもたないのか,めりめりとワイヤーが音を立てている気もする……
一話完結です。「ぼくは覚えている。 蝉の喧しい茶色い肌の傾斜を、まだ成熟しきらない関節に力を込め、緑の中心を目指している。大気が孕むひりつく熱は、互い違いに並ぶ樹と、それらが蓄えた葉に遮られている。山毛欅と櫟の卵塊が散り乱れる、その地の表に、綺羅と……
一話完結です。「佐藤くんは今日も練習している。昨日も練習している。たぶん明日も練習する。練習ばっかり。汗いっぱい流しちゃって。タオルなんか、いつも汗くさくて。ふつうの人はそんなに汗かかないよ。汗かかないように気をつけてるよ。でも佐藤くんは汗を気にしない……
高校から大学、そして社会人に。人々は他者が抱く思い出とは異なった道を歩む。ここに、高校生のときに願った望みを、自らの手で壊した一人の人間がいる。善意を持ちながら、それでも人を、自分を不幸にする者の物語。