妖怪博士シリーズから。
雨が降っている。初夏の雨。梅雨だろう。しかし梅の気配はない。
岡倉は隣町に引っ越して十年になる。すぐ近くなので、いつでも寄れる距離なのだが、そのアパートはもう取り壊され、代わりにマンションが建っている。
自宅を個人オフィスとし、日々似たようなことをやっている田村だが、一週間ほど同業者に仕事を頼まれ、手伝いに行くようになった。
鬱陶しく蒸し暑い梅雨の季節、風が吹いている。台風が近付いているのだろう。
ある日、竹本はふと郵便ポストを見た。いつもの道の角にある赤いあの郵便ポストだ。
「どうもいかんのう」妖怪博士が呟く。 「出ませんか」妖怪博士付きの編集者もため息をつく。しかし、この問題は最初から無理なのかもしれない。つまり、妖怪がなかなか出ないのだ。
初夏の夕暮れ時、三村の前を老婦人が歩いている。陽射しは緩み、歩きやすい時間帯。
岩田老人宅の玄関戸に「セールス勧誘一切お断り」と書かれたプレートが貼られている。玄関戸は二枚のガラス戸で、ガラガラと開ける昔のタイプだ。
「探したら出てきたよ。捨ててなかったんだ」 「それは復活させないとね」