顔なんかどうでもいい。性格も二の次。私、彼のこと何も知らないけど、彼の爪はだれより長いことみつめてる自信がある。
その男は今日もまた墓の前で手を合わせていた。来る日も来る日も足を運んでいた。
気がついたとき目の前は真っ暗で、手の中には一枚のお札。狼狽する僕に二人の老人が話し掛けてくる。一人は地図を、もう一人は洋燈を売ろうとして。
冬の巴里は陽の落ちるのが早い。うす暗く翳った路地には、どこの国の者とも知れぬ人々がぶらつき始める……岡本かの子『売春婦リゼット』への返歌。