僕の先輩を人生は許さない

僕の先輩を人生は許さない

天動説も地動説も信じることができなかった先輩は、世界のふちを目指して散歩していた。正直、散歩というより流浪だった。追放されたかのようにも見えて、ひとごとなのにさびしくなった。でも先輩は底なしに楽しそうで、だからそろそろ先輩はタヒななきゃいけないんだけど、先輩のことだから物理法則にしたがう気なんてさらさらないんだろう。無気力になるしかなかった。タヒんでるみたいに無気力だった僕らを見て、先輩はにやりと笑った。
いつか先輩はルイス・キャロルのナンセンス詩の魅力を集中講義してくれたけれど、僕にはそのよさがわからなかった。ただ、先輩の好き嫌いとか興味ってやつは、生存のための策略のようで、野性に満ち溢れていて、やばいなって思った。語彙力がないぼくには、その状態をやばいとしか言い表せない。先輩の存在そのものがやばいのかもしれないけれど、あえてその可能性は排除しておこう。誰だって、語彙力がないとは思われたくないんだ。語彙力がないやつは、先輩に「タヒね」と言われてしまう。
誰彼構わず「タヒね」と言う先輩だったけれど、人生は先輩に向かって「タヒね」と言った。ティッシュペーパーよりも軽い拒絶が、先輩の頭上でひらりと舞った。それくらいでタヒねるのなら先輩にとって本望だったけれど、拒絶はなかなか先輩の脳天に落ちてこなかった。だから先輩は待つことができず散歩をして、ノースポールから全人類に「タヒね」って発信して、満面の笑みがポーラーナイトを照らして、ポラリスとか世界のふちとか、そういうもの目指して解脱なう、って感じだった。だいじょうぶ、地球が今46億歳くらいだから、先輩もあと46億年は平気で生きられるよ。

僕の先輩を人生は許さない

僕の先輩シリーズ
第一弾 https://slib.net/100529
第二弾 https://slib.net/100963
第三弾 https://slib.net/101939
第四弾 https://slib.net/102932
読んでいただければありがたい。

僕の先輩を人生は許さない

シリーズ第五弾。https://slib.net/100529の関連作品のつもりですが、別にこれだけ読んでいただいてもかまいません。ツイッターで一秒おきに「タヒね」ってつぶやく先輩の話です。

  • 小説
  • 掌編
  • 青春
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2020-12-06

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