僕の先輩が人生を笑わない
僕の先輩が人生を笑わない
秋の終わり、それでも地球温暖化が進行する中、先輩は一人であずきバーをかじっていた。かじる前は鈍器にでもなったのだろうけど、かじってしまったからにはもうただのアイスだ。先輩はあずきバーを満喫して、最後に残った棒に「タヒね」と言った。おいしいものはみんな、先輩のおなかに入っていくから、僕たちの人生は苦い。僕や、僕のまわりの人が経験しながら歳をかさねて失望していく、興奮ってやつは先輩と無縁だった。先輩はいつでもハイテンションだったけれど、それらは全部「タヒね」って言うためにあるハイテンションで、先輩の人生とはまったくもって無縁だった。僕にとってそれはなんだか寂しいことで、でも先輩のことを考えていないときにはどうでもよかった。先輩は四六時中どうでもよさそうな顔をしていた。どうでもよさそうな顔のハイテンションって、なんか怖いよね。
先輩のハイテンションに合わせて、みんなタヒぬ。それでも先輩はなんだか不服そうだ。先輩が言うには、タヒんでいく人たちは先輩のことなんか無視しているらしい。誰だって、無視されるのはいやだ。先輩はみんなの先輩だから、そういうこともよく知っている。とうとう先輩はつまらなくなって、僕の首に手をかけて、きゅっと締めながら「タヒね」と言った。
どういうわけか僕はタヒななかった。これが人類の新スタンダード。
僕の先輩が人生を笑わない
僕の先輩シリーズ
第一弾 https://slib.net/100529
第二弾 https://slib.net/100963
第三弾 https://slib.net/101939
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