僕の先輩は人生を語れない
僕の先輩は人生を語れない
誰からも先輩と呼ばれている先輩が僕の先輩で、先輩にとってはキラキラネームが没個性的なものでしかなくて、高校生にもなって持ち物にお名前シール貼ってるやつなんていないから、さ。後輩の僕は先輩に戸籍がないことが漠然とうらやましかった。もし先輩が朝礼の時間、校長先生の後ろでバク転しても、誰も気にしないだろうから、先輩は体重が軽いのか、いつもヘリウムガスが詰まってるみたいに、体育館の天井にひっついてた。先輩は誰かに似ていると言われたことはないらしい。でも、僕は文字化けしたメールみたいだな、と思っていた。先輩のツイッターは面白かった。一秒おきに「タヒね」ってつぶやいていた。フォロワーがそれなりに多かったから、この人はやっぱり先輩としか呼ばれないだけある。先輩は雄弁で、頭の回転が速くて、いつもわけのわからない言語で話していた。相手は誰でもよくて、同級生でも後輩でも教師でもよくて、もちろん壁でもよかったから、先輩は壁とばかり話していた。先輩は人生を語れなかったのに先輩だった。先輩が人生を語れない理由は、単純に、語らないだけなのかもしれないけれど、僕にはそう思えなかった。それが気になって訊ねると、「べつにそんなことどうでもいいんじゃないのか」先輩は僕にそれだけを答えてくれた。
僕の先輩は人生を語れない