僕の先輩から人生を悟れない
僕の先輩から人生を悟れない
お風呂に頭までつかるとき、先輩はきっと、僕の顔真似をしている。何の特徴もない顔だから、真似するのも難しいだろう。先輩はそれくらい暇だけど、みんながみんな先輩の後輩だから、ある意味先輩は顔真似に忙しい人でもある。僕はそれがくだらないって思っている。先輩は卵を割るのが苦手だった。名前は知らないけど、殻の裏側に引っ付いているあの薄い膜を許せないのだ。先輩は無精卵にあきれ返って、無精卵踊りをはじめる始末だった。苦手なことをそうやってごまかすのはばかみたいだ。先輩はとにかく悪趣味だった。私服は全部大学生とは思えないほど高級なもので、おまけにブランドは統一されていない。でも、どれもこれも先輩には似合っていなかった。ださいとかださくないとか以前に、僕は先輩の人間性を疑った。そんな先輩だけど、先輩は確かに先輩で、それだけはこの不確定さだらけの世界でたしかに確実性を持っていた。先輩ができることはただ一つ、ツイッターで一秒おきに「タヒね」とつぶやくことで、すがすがしいくらいにそのツイートは先輩の人間性を、僕らのコスモロジーを代弁していた。さわやかな秋晴れの日だった。先輩は突然、満面の笑みで自分のツイートを古いものから順に音読をはじめた。もちろん、一秒おきに新しいツイートもした。先輩の音読は延々と続いた。意味のないことばの連続をBGMに、僕ら後輩はみんな手をとりあって、世界で一番やさしく、純粋なこころをもった子どもになった。
僕の先輩から人生を悟れない
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