僕の先輩に人生は似合わない

僕の先輩に人生は似合わない

先輩が昨日二十二歳になったらしい。でも先輩に誕生日なんてものはないから、たぶんそれは先輩自身の思いこみで、ほんとうは十九歳でも十三歳でもいいんだ。さすがに、十歳を下回ると、先輩が存在しない可能性があるけど。先輩はファミマの近くに住んでいる。本当かどうかはファミマの店員しか知らない。でも、ファミマの店員はきっと先輩なんかに興味がないだろうから、先輩はいつも電線に引っかかってた。先輩は岡本太郎が好きで、ピーマンとナスが嫌いだった。だからピーマンだのナスだのを食べるときには必ず、明日の神話を口に入れていた。先輩はダンスも好きで、よくいろいろなところで踊っていた。先輩がステップを踏むたびに、ぐにゃぐにゃにねじ曲がった八分音符が宙に浮かぶから、僕はずっとそれを数えていた。先輩が踊るのに飽きると、音符はかちかちと音を立てながら廊下に落ちて、清掃員のおじさんはいつも困ったように音符を片づけていた。僕が先輩について語るとき、常にことばが単調になるのは仕方ないことだった。これもまた、今日の先輩でしかないんだと思うと何をするにもおっくうになる。明日の先輩は十七歳で、きっと岡本太郎が大嫌いだよ。めんどくさいなとか考えながらツイッターを開くと、「タヒね」と一秒おきにつぶやいているだけなのに先輩のフォロワー数が地球人口を上回っていることに気づく。ここだけは今日も明日も変わらない、先輩のこと。先輩に人生は似合わない。僕がそう指摘すると、先輩は苦笑いしながら「タヒね」と言った。

僕の先輩に人生は似合わない

僕の先輩に人生は似合わない

https://slib.net/100529の関連作品のつもりですが、別にこれだけ読んでいただいてもかまいません。ツイッターで一秒おきに「タヒね」ってつぶやく先輩の話です。

  • 小説
  • 掌編
  • 青春
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2020-07-21

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