今まで歩いて来た方角などわかる者はいない。道を探すのに精一杯であり、地下の曲がった通路を歩いてきて、誰も今いる位置など把握していない。誰もが杏樹の並外れた、というより人間離れした方向感覚に言葉を失っていた
櫂はそう言って黒い染みを手でなぞりながら口を固く結んだ。黒い染みの正体は少年たちの『血』だ
真夏の太陽が降り注いでいた森から一歩踏み込んだ先は、ひんやりとした冷たい闇だった。 固く敷き詰められた石畳に足音がやたらと響く。徐々に涼しいというより寒くなってきた。 声を低くして櫂が振り返った。闇の中に琥珀色の瞳が光る。睨まれた聡は口元を隠した。
「ルールを破りし者に、罪を ルールを破りし者に、罰を ルールを破りし者に、報いを」※続きは本文へ。@ココミュ(台本)
杜雪が『癒しの手を持つ少女』だとわかると、彼女はその日から巫女にされた。巫女は清められ、他の子供たちとは離されて大切に育てられる。だが、彼女には好きな人がいたんだよ……君のお父さんの名は夜風だね
櫂が薪をくべると、火の粉が散り、薪がはぜる音が大きく響き渡った。みんなはまた無言で炎を見つめていた。時折聞こえてくる鳥や獣の声が、より一層森の静寂を深める
──そんなに言うなら杏樹を起こそう 炎で赤く染まった頬を動かさずに、秀蓮に向かって玲は言った。
自分の身体を隠そうともせずに、夏の太陽のまばゆい光の下にさらして笑っている陽大は自然体だ。
誰も自分を杏樹とは別の人間なのだと、解ってくれる奴などいなかった。誰も自分を『陽大』と認める人間などいなかった。かたくなに他人の侵入を拒み、みんなで築いてきた心の壁が崩れていく気がした。
他にもこの国の資源を狙っている国がある。載秦国は今のところ何ともないが、近隣の小さな国は、その資源を求めてやってきた奴らに、次々と植民地にされている──
砂を伝って、炎は徐々に大きくなっていく。 あっという間に炎は天井にまで燃え広がり、少年たちの走ってきた通路を、まるで巨大な蛇が荒れ狂うように這っていった。熱い風が少年の頬に吹きつける。炎を見つめる琥珀色の瞳が ──赤く光った
蓮の花が美しく咲き誇るこの庭を眺めながら、皇太后はいくつもの夏を過ごしていたのだ。淡い鴇色の花の中に、一輪だけ白い蓮が咲いていた。聡は階段を降りて、そっと白い蓮の花に触れた ──第一部 完──
夕日に輝く瑠璃瓦が見えてきた。いつになく眩しく感じるのは、夕日が美しいからなのか、それとも夕日と別れを惜しむ瑠璃の瓦の寂寥感なのか、紅蘭は目を細めて少しずつ近づいてくるお城の瑠璃瓦を眺めた。