古代ホーシア大陸には、人と竜によって築かれた国があったと言う。それら全てが伝説となった時代、竜が守護するとされるイスタムール国に、隣国との争いが勃発する。 そこへあらわれた竜の少年と、彼を監視し世話をすることを命じられた若い国官。国内に不穏な空気が流れる中、二人は次第に友情を育んでゆく。 竜と人、本来交わることのない二人の出会いは、彼らを取り巻く世界の奇妙な矛盾をも浮き彫りにして、彼らを翻弄するのだった。
棺を囲んでいるのは、棺に寄りかかりながら、お互いもたれるようにして座わり、ミイラ化していた少年たち。その異様な光景に息をのんだ。部屋に足を踏み入れて聡は気づいた。夕べ見た光景。神殿の小さな部屋の床。無いはずの穴に差していた月の光。闇へと消えていた光が差していたのはこの場所ではないのか……。
ママは死者が乗る列車をホームで待ち続けていた。ホームは果てしなく長く、その果ては闇の中に消えていた。ホームには一台の電話が設置されている。それは下界の自殺志願者と繋がる電話。電話が鳴った。ママは自殺志願者に、死を選択させることも、生きることを説得することもできるのだった。
私の住む星はすべてが満ち足りて、すべてが通じ合い、悲しみも痛みもない完璧な世界だった。私はその世界から、この世界にやってきた。すべてが未完全で荒々しい黒い世界。私はそこで孤独を知った。
ここがかつての聖地だからなのか。ここで暮らした人々の大地に染み付いた想いが、人々を見守っていた神々の眼差しが、月の光に彷徨っているような……。 聡は闇に浮かぶ神殿を見上げた。
捨てられた都。 忘れられた遺跡たち。 ひとつの文明が母なる大地に抱え込まれ、ひっそりと息をしながら長い眠りについている ──そんな静けさがある
杏樹。君が何かを隠していることは、寮のみんなが知っていることだよ。だが、誰もあえてそれを聞こうとはしない。寮にいるやつらはみんな人に言えない秘密や悩みを抱えているからな。──だが、君は少し違う