俺の幼馴染が巫女で男の娘!?(12)
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御守の住まいは考えるまでもなくこの村の中で最も複雑かつ煩雑な構造をしている。崩れないように川沿いの崖を補強した上で地下に幾層も折り重ねられた廊下は設計の意図が見えない。
そこに、冒険心をも陰らせてしまうような仄かな恐怖心を感じる程度には、照彦も冷静になっていた。
「おーいミズキ。まだなのか?」
そんな施設の一角、二層目の廊下の奥まったところにある浴室に通じる脱衣所の前で、照彦は扉にもたりかかり腰を下ろしていた。
つま先を伸ばすと、廊下の床板はひんやりとして指先がじんじん痛む。真夏にならば涼しげと呼べるのだが。
「……ミズキ?」
今し方まで聞こえていた、水面を叩く音が途絶える。静まりかえって、扉の隙間から漏れ出る湯気は生温い。
「いつまでもここで待ちぼうけ食らってるとさすがに冷えるんだが」
天井の電球がばちばちと音を立てる。
「……ごめん。意地悪するつもりじゃなくて、ただ決心がつかないから、その」
ようするに、湯船に使ったら頭だけは冷えて、後込みしているらしい。
「なぁ。言い出したのは俺だけどさ、そんなに嫌なら違う着替え持ってこようか?」
「いい。人……というかテルに、箪笥の中身弄くって欲しくない。巫女服着ろとか言い出すような奴に」
「ひでぇ」
「テルだって自分のタンスが人に弄くられるのはごめんでしょ?」
言われてみれば、近所の爺さんから授かった冊子のことが真っ先に思い浮ぶ。
年頃の男子の癖にその手の話が通じないどころか無理に説明しようとすれば鮮やかに赤面して逃げ出す幼馴染みには決して見せられたものではない。
「……そうだな。そうかもな。確かに、自分の部屋なんて他人が勝手に弄くっていいもんじゃない」
「テル、何を隠してるの?」
なぜ感づかれた?
口走りかけて危ういところで誤魔化しの文句をでっち上げる。
「ど、どうしたんだよいきなり、隠し事なんて……そりゃあ、ない、とは言わないけどさ。別に今関係あるようなものは」
「だって今のテル、物分かり良過ぎたんだもん」
どうしてそんな理由で責められねばならないのか。
「普段から意地悪ばかり言ってるからだよ」
「人の考えを読むな」
もう少し文句を垂れてやろうと照彦が口を開いたら、別のものが飛び出てきた。
「ひっくしゅん!」
鼻をすすり、それから冷えた肩を震わせる。
無駄話をしている間にも照彦の体温は奪われていたのだった。
「わ、今のテルのくしゃみだよね!? ごめん、先にどこか温かい部屋に戻って――」
「ここに幾つ部屋があると思ってんだ? 探してる間に凍えちまう」
「そっか。だったら……」
何やら扉の向こうで思案している様子だった。
「そうだ! テルも一緒にお風呂入らない?」
「風呂? お前と?」
「うん。もう最近は全然だけど、ほら、小学校のときは一緒に入ってたし」
「あぁ……そんなこともあったな」
小学校、と言ってもまだ低学年の頃だ。
今ほど父親の目も厳しくはなかったからどちらかの家に一方が招かれ、そこで眠るまで遊んで一泊した。
風呂に入るのも当然、二人一緒だった。
「だがこの歳になってそれはなぁ」
「でも寒いんでしょ?」
「いや、そうだけどさ……」
本音を言えば気恥ずかしい。
しかしそんな赤裸々な告白はごめん被りたい。
「そ、そうだ。ほらお前、着替えと……それからタオルもないだろう? 風呂入ったら俺、素っ裸で――」
「パスタオルなら余ってるよ。御守さまと二人で住んでたんだから。 それに着替えは僕のがあるし」
「………………」
まずいまずいまずいまずい。
具体的に何がどう『まずい』のかは説明しかねたが、ともかくまずい。
「じゃ、問題なしか」
ありまくりなのだが、本当はそう抗議してやりたかったが言ってしまったことはもう取り返しがつかない。
俺の幼馴染が巫女で男の娘!?(12)