台風による大雨で中津川の一部が氾濫した。そして小規模な土砂崩れが発生、それに巻き込まれたような格好で男の死体が発見される。身元は佐波原姉市埋蔵文化財センター調査課長の加藤清志だった。 多摩中部署の刑事柏崎一茂は加藤の死を佐波腹署の若手刑事猿橋弘毅から知らされ驚いた。加藤と一茂とは大学時代に入っていた考古学研究会で先輩後輩の間柄だった。加藤を知る一茂は用心深い加藤が、台風による豪雨で土砂崩れを起こすような危険区域に立ち入るはずがないと疑問を口にした。だが佐波原署は威圧的に事故としてt結論付けてしまう……
「いかんせん僕は自分が一番最強だと思っていますよ」人を見下す事で快楽を覚え、嘲笑う青年「トオル」。ある些細な事を原因に、孤立してしまう彼はある日、「時を停止出来る」という超能力を持っている事に気が付く。それを機に、他人とは違う優越感が招く自惚れへと溺れて行くトオル。そんな彼は、超能力者が集まる裏業界の存在を知る。
人間の住む街に侵入してくる獣を森に還す「獣還師」が仕事の主人公はある日、西地方(ノスタルジア)の東街から仕事依頼を受ける事となる。 一見、いつもどおりの順序で終わると思っていた仕事だったが、徐々に平和の背後に住む悪にへと、主人公は気づいていく。光が当る場所には影があり、幸せで溢れる陰では不幸が佇むのだ。ファンタジー世界環で起きる、この世の惨酷さの中での正論。
大学生活の初日にある女性に一目惚れした青年「堀澤」。彼は一目惚れした相手と仲良くなろうと努めている。しかし、過去に起きたトラウマが脳裏に揺らめき、堀澤を躊躇させ続けた。そんな彼は突然、投影された世界――パラレル・ワールドに迷い込んでしまう。そこには一目惚れをした女性がいて……。 堀澤の中学時代からの友人「高木」。彼はある女性と出会い、友人堀澤の失踪を知る。堀澤の行方を捜すため、高木は歩みをはじめる。淡く翳んだ曖昧の記憶を抱いて。そんな高木の前にある男が現れる。 「虚ろな独り言」「パラレルワールドの静寂」の二つの物語が交差する群像劇。
【短編】「梅雨ですねえ。また雨です」と僕は言った。 「いいじゃないですか。私は好きですけどね。雨。なんていうのかな? 街を洗っているみたいで」 僕はこくこくと肯いた。僕も雨は好きです。「でも僕には空が溜め込んだ不満を吐き出しているようにも思えます」と言った。 「そう考えたことはなかったです。雨ってだけでも人間それぞれの考え方があるんですね。うーん深い」彼女は肯いた。そうですね、と僕は微笑んだ。彼女は微笑みをかえした。(本文の一部を引用)
君には好意を寄せる女性がいる。しかし思いを伝えることができないまま、彼女には恋人ができてしまっていた。それからは強い嫉妬心に苛まれる日々だった。そんな君の心を癒すのは空を喰らう静穏な夜だった。この夜の先にある何かを探す君。そんな彼の前に、ある実態を持たない男が声を囁く。彼は自身を「夜の繋ぎ人」と名乗った。
その豊満な肉体をもった彼女に、僕が一目惚れするまでの時間は秒数の単位をつけられなかった。僕は立花夏夜という彼女を見かけたその瞬間から、莫大な性欲の踊りを許してしまっていたのだ。僕のその浅はかな思考は、やがて後悔へと変わることとなる。 季節は夜に目隠しされたまま、立ち止まることなく歩んでいく。いつまでもそこに月はたたずみ、僕にあの桜がよどんだ川面を思い出させるのだ。
【短編】ある猫は悩んでいた。それは猫が恋している女学生の顔から、笑顔が消えたことだった。どうして彼女は変わってしまったのか、猫はわからないでいた。彼女の失くしてしまった表情を見つけ出すため、猫は自分なりに彼女を救おうと努力するが……。
ある季節を、ぼくは探していた。それなのに、ぼくはそれから逃げていた。深い霧を抜けようと、ぼくは思っていた。それなのに、ぼくはそれから逃げていたのだ。弱いぼくは傘をさし、モノクロームなままの街で逃げるだけだった。君は夜明けのまにまに雨を降らしてくる。コーヒーは苦いまま冷めていく。蓮の花もまだ服をきたままで、蜘蛛の糸も垂れてこない。「さよなら」と言えないぼくが逃げこんだところは、ぼくの知らない街だった。