俺の幼馴染が巫女で男の娘!?(4)
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意味もなく小石を蹴り飛ばしながら西日の作り出す濃い木陰の中を歩いていた。黙っていたら力の加減を誤り、小石は草むらの陰に消えていってしまう。
気詰まりだった。
「な、なぁ……」
「うん?」
「何でもない」
すぐ隣にいる泉希の表情を伺おうとしては寸前で踏みとどまり、というよりはへたれてぐったりとうなだれてしまう。
場を取り繕わねば、なんて使命感からではなく、ただ泉希と話して、それからどうしたいのかは照彦自身にも分からなかった。
「えっと……ねぇ。言いたいことあるならちゃんとこっち見なよ」
「別に、言いたいことなんて……」
本当に、これと言って伝えておきたいことがあるわけではなかった。ふと立ち止まって考えてみるまでは。
「テル? 暗くなりそうだから早く帰ろうよ」
照彦より数歩前に進んで、林が途切れた先の日なたで歩みを止めた泉希が振り返る。
「あぁ。だけどその前に――」
話したいことがあると泉希に伝えようとしてに目を向けたらその肩越しに夕日を直視してしまった。目が眩み、溜まらず顔を背けてしまう。
「どうしたの? 用事があるなら歩きながら聞くよ」
そのまま歩みを再開する泉希に照彦は慌てて追いつき、横に並んで声に出してみた。
「明日が……がダメなら明後日でもいい。俺にミズキの秘密の場所を見せてもらえないか」
「どうしたの突然? さっきは全然興味なさそうだったのに」
じっとりと疑わしげに瞳の中を覗かれて照彦は苦笑する。するとなおさら不満げに泉希は薄い唇を尖らせて、そっぽを向いてしまった。
「言っておくけど、ご機嫌取りのつもりだったらやめてね。さっきも言った通り僕は怒ってないから」
「嘘つけよ。思いっきり声が怒ってるじゃねぇか」
不用意な発言が、理解されていないこと以上に怒りを焚きつけて泉希を逆上させた。
「それはテルがそんなこと言い出したから! ていうかっ、さっきもそんなふうに意固地になってたから怪我したんだろ!? ちょっとは学習しろよ!」
目に光るものを溜めながら怒鳴られて、言い掛けていた言葉も照彦は飲み込んでしまう。
「ごめんごめん。違うんだってミズキ。俺はたださ……」
「何?」
泉希に涙目で睨まれて「ぐ」と息を詰まらせ、乾いた笑い声を漏らす。
「考えてみればお前が秘密だとか、自分のことを明かそうとしてくれる機会なんて滅多になかったから。知りたくなったんだよ……本当に、それだけで」
言い訳にはならないようにと気を配っていたはずなのに、その口振りはどこか後ろめたさを引きずっていた。独りよがりを口にしている自覚くらいはあったからだ。
それでも、照彦は。
「嫌なんだよ。ミズキって、何も言わずにどこかへ消えちまいそうで。できる限りお前のことは知っておきたいんだ」
そうしないと不安になるから、ともごもご口の中で呟き、その赤裸々な内容に自分で顔を赤くした。
ばつが悪くなって目を背けようとしたら泉希がぽかんとした顔で照彦をみつめている。その丸い瞳が小さく傾ぐ首に合わせて照彦の目を追いかけた。
「ぷっ」
くすぐったそうに腹を抱え、泉希は笑い出す。
「あっはっは! やだな! テルから離れて、僕がどこに行くって言うの? 村境の橋はいつも見張られてるのに。近づいただけで叱られるんだから」
勘弁して欲しいよね、と泉希は前のめりになって照彦の顔を覗き込み、微笑みかけてくる。
それに照彦が何一つ言葉を返せず呆けていると、何を勘違いしたのか泉希は自嘲気味に目を伏せて照彦から半歩遅れた。
「ごめん。いきなり怒鳴ったりなんかして。本当に怒ってるわけじゃなくて……色々あったから。まだ気が動転してるんだ」
「なるほどな。ま、ミズキってビビりだから」
また脊髄反射的に口走ってしまい、照彦は自身の口のゆるさに驚かされた。
「うっさい。ビビりなのは……そうかもしれないけど、テルに言われるのはむかつく」
「ビビりなのは認めんのかよ。それと、どうして俺だけはダメなんだ」
「それは、その、テルが幼馴染みだから。これ以上は、なんて説明したらいいか分からないよ。それよりさ」
じっと顔と顔の距離が縮まって間近から観察され、それから少しまた離れると泉希は問いかけてくる。
「約束できる? 無茶しない。無理もしないって」
否定は恐らくできないというか、しようとしても強引に条件を呑まされることは薄々答える前から察していた。こんなときに我を貫き通せる人間なら幼馴染みとの関係も変わっていたのだろうと益体もない想像をしながら照彦は溜め息をつく。
「分かったよ。それで、その約束を守るんならどうしてくれるんだ?」
照彦の返しに泉希は威勢良く「うん!」と頷き、宝物を見せるような笑顔で提案する。
「僕の発見をテルにも見せて上げる」
俺の幼馴染が巫女で男の娘!?(4)