Newファッションの提案
最近、新しい生活様式というのが話題らしいので書きました。(大きく改稿しました)
僕ァね、皆様に一つ、提案したい事があるんですよ。
それは、皆様ご一緒に、黄色いレインコートを着て外出しませんか?というものです。
ただもちろん、晴れの日に限って、という事ですが。
そうすれば、アナタは美しいモノを生み出すことが出来るのですよ。
実に。
もしも、
Instagramやらtick-tockやらに蔓延るインフルエンサーたちを駆使して人々の間に、何の変哲もない安価な黄色いレインコートをNEWファッションとして流行させたのなら、都会の街にも、黄色いレインコートを着た人々が歩き回る、なんていうような美しい光景が展開される。
そう思いませんか?
僕が説明するまでも無く、僕の意見に同意してくれる人もいるでしょう。
そういう人は、今すぐにでもこのタブを閉じて、黄色いレインコートを着て外出していただければそれでよろしいのです。
けれども、もし皆さんが、人々が黄色いレインコートを着て外出した事によって作られる街の美しい光景に思い至らないのであれば、よく想像していただきたい。
そうすれば、幾つか分かることもあろうかと思います。
想像。
街中のみんなが、フード付きの黄色いレインコートを着て、渋谷やら原宿やらの賑わった街を歩く。
普段、着崩した制服を着ているようなJKや、よれたスーツを着ているようなサラリーマンも例外ではない。
本当にみんな、全員が。
街の全ての人間が黄色いレインコートを着て、幸せそうに笑って歩き回っている。
人々は黄色いレインコートを着たままスクランブル交差点を渡り、黄色いレインコートを着たままタピオカを飲む。恋人たちは手をつなぎ、女子高生たちは腕を組んで歩く。
空は子供部屋の壁紙に使えそうなほど雲一つなく晴れ渡り、太陽は彼らを照らすので、辺りは身体が汗ばむくらいには暖かい。黄色いレインコートの下は蒸れ、暑苦しい。
でもそのうち、雨が降ってくる。
最初はポツポツと、
みんな、その水滴の感触に慌てて空を見上げる。
でも、空は晴れたまんま。
呆然とその人々が空を見上げたままでいると、じょうろを傾けたような優しく、柔らかい雨。
唐突に降りだした天気雨だ。
どこか空とは別枠の場所から、雲とは無縁に、水滴たちは降ってきているように思えた。
だって、空はあんまりにも晴れ過ぎていた。
けれども、それは確かに「雨」だった。
水滴は陽の光を通し、その一つ一つが夢の中の水晶たちみたいにして輝いている。
人々は、とにかく髪の毛を水滴から守ろうと頭を手で覆いかける。
覆いかけるのだが、ある時点で皆が気が付く。
そうだ、レインコートを着てきたじゃないか、と。
彼らは一瞬、してやったりといった様子でニンマリと笑い、黄色いレインコートに付いているフードを被る。
輝かしい天気雨のもと、いまや、街中のみんなが一様にそうしていた。
そして、フードを被った人々はみな静かだった。
なぜか黙り込んでいる。
彼らが黙り込んだ街の中で、人々が被った黄色いレインコートのフードに雨粒が当たり、弾ける音が単調に響く。信号機が信号が青に変わった事を知らせるあのお馴染みのチャイムがクラシック音楽の中の1フレーズのように象徴的に聞こえる。店先で流されているヒット曲も、天気雨の街にあっては違った意味合いを帯び始めていた。
街中の人がそれらの音に聞き入っていた。本当に、誰も、話すものはいない。
やがて、雨が止むとそれに気が付いた人々はゆっくりとフードを外した。
フードを外し、吸い込んだ街の空気は、塵がすべて洗い流されたように透き通って、やけに新しく感じられた。
頬にヒンヤリとした空気が当たっている。
フードを外したみんなは、また雨が降りだす前と同じように笑っておしゃべりをしながら道を歩いていく。ある者は横断歩道を渡り始め、またある者はタピオカの続きに取り掛かる。
街は湿ったコンクリートの匂いで満たされ、彼らのレインコートに付いた天気雨の水滴は日が暮れるまで、彼らの上で輝き続けている。
想像、終わり。
皆様が黄色いレインコートを着て外出したのなら、こんな光景が見られるのですよ。
もしも、
あなたが、黄色いレインコートを着た彼らに対して何か鬱屈した感情やら何やらを持つのなら、それは完全なる傲慢ですよ。
まったく。
皆様は一つの例外もなく、彼らの中に含まれているのです。
もちろん僕もですが。
つまりね、僕らはインフルエンサーに従って、黄色いレインコートを着るより他はないんです。インフルエンサーによって作られた、黄色いレインコートを着た長い行列の末尾につけて歩くしかないのです。
それでも、皆様ご一緒に黄色いレインコートを着れば、雨粒がレインコートに弾ける痛快な音や信号機による宿命的なチャイムだって聞けるのです。
誰によって、どのように作られようが、美しいモノは美しい。そうじゃないですか?
僕らは皆で1セットなんですよ。
どうでしょう?皆さん。
ここはひとつ……。
Fin.
Newファッションの提案
もちろん、僕は彼らに対して悪意を持ってはいません。