星食の森(掌編)
先生が星を食べているところを目撃してから、しばらくすると、ルタはそれが毎晩のことであるのに気づきました。森のなかにある小さな丘に行くと先生は大きな手をのばし、星をひとつまみして口のなかへ放りなげるのです。星は先生の歯に当たると、しゃらりと音をだして砕けるのがわかります。ルタはその音をきくと、なんだかこのことは、先生の重大な秘密のように思われて、見てしまったことを云えないのでした。
そうして数日がたった頃です。先生はルタに云いました。「いいかい、ルタ。人はね、死んでしまったら星になるのだよ」「だから星はあんなにも美しいのさ」と。
ルタはそれをきいて、なんて素敵なことだろうと、ときめきました。死んでしまったら、あの夜空で輝く星のひとつになれるというのです。そんな素晴らしいことがあるでしょうか。ルタは死んでしまっても、なにも恐ろしいことはないように思われました。先生もそうにちがいありません。だって先生は「私たちは死んでしまってもきっと、大丈夫だね」と云い加えたのですから。
しかしです。ルタは先生が部屋からいなくなると、はてと思うのでした。先生のあの秘密が思い返されたからです。
(人は星になると云うけれど、先生はその星を食べてしまっていた。)
ルタはこれはヘンテコなことだと思いました。そしてなんだかかなしくなるのでした。
去年の夏に死んでしまったおじいさんや、その半年前に息絶えた、まだ赤子だったミイシアも星になったのでしょうか。どこかで輝いているのでしょうか。それとも、もうすでに先生に食べられてしまったのかもしれません。
ルタはこのことはやはり重大だと思いました。しかしだからこそ、先生にはなにも聞けないのでした。
先生は今夜も星を食べると、虫たちが美しい音色を奏でる森から、ルタと二人きりで暮らす小屋へ帰ってきました。寝室ですでに眠っているルタの額にキスをします。あどけないルタの寝顔は、先生をすこしかなしくさせることもあります。
先生はルタの頬を骨ばった指でなでると、窓辺へいき天を見あげました。首からぶらさげた十字架を握りしめて跪きます。そしてルタには気づかれないようにささやくのです。
「神に懺悔します。今夜も私は星を食べてしまいました。生きながらえるためです。美しいものにはいのちが宿ります。けれど人の寿命はとても短いのです。私はルタのためにもっと生きなければならなりません。星々を愛しています。けれどルタのことを、もっとも愛しているのです。」
星食の森(掌編)