感じた重さ

感じた重さ

失った物

 確かに、僕は、彼女の・・・君の重さを感じていた。ほんの数秒前に、君は僕の腕の中に居た。

 彼女は僕の前に現れた。僕は、一目見て君を愛する道を選んだ。そして、彼女もそれを受け入れてくれた。僕の心には、彼女がいて、彼女が側にいる日常が当然の事の様に思っていた。
 僕は、彼女の夢を聞いて、彼女は僕の夢を聞いてくれた。そう、二人を別つ事が来ることを考えていなかった。

 僕は、彼女と初めて身体を合せた公園に来ている。あの時は、確かに彼女を身体で感じる事が出来た。
 そして、彼女も僕の重みを感じてくれていた。二人は、これが永久に続くことを、信じて疑っていなかった。”疑っていない事”さえも、考える必要はなかった。
 僕は、今感じなくなってしまった重みをかみしめながら、彼女の後を追うことにした。

 やる事を果たしてから・・・。

 あれは、一年前の同じ日。彼女が、僕の重さを感じる事ができなくなった日。
 何が合ったのかは思い出したくもない。あの日、初めて僕たちはお互いを感じる事ができ、その時、僕は左腕と左目を失った。そして、失ってはならない彼女を失ってしまった。彼女との思い出だけを、心の中にとどめ、全てに決着をつける事だけを考えた。恩には恩で、彼女を屠ってくれた心優しき人。
 彼女は確かに僕の中で生きているし、僕は彼女の甘い誘う匂いや腰の柔らかさ、そして確かに感じる事が出来た彼女を、身体全体で覚えている。失ってしまった左腕で彼女を支え、抱き寄せた。その感触までも残っている。そして、触れた唇、触ってくれた事、彼女の中で果てた事。

 全てが昨日の事の様に、思い出す事が出来る。

 そう、ここで確かに彼女と結ばれて・・・そうして、永遠の別れをしたのだ。もうすぐ”やつら”がやってくる。もうすぐ彼女の所に行ける。それだけを、それだけを、それだけを夢見て僕が今日まで死なないで居た。

 もうすぐだ、もうすぐだ、もうすぐだ・・・・。

---
「そういやぁ林の奴事故ったって聞いたけど、何やったんだ?」
「あぁいつもの事だよ。」
「なんだ、そうか、それじゃぁ心配する事じゃないな」
「いやそうでもないみたいだぞ、昨日警察から連絡があってな、林の車に細工された形跡が見つかったけど、何か心当たりは無いか?って聞かれたよ」
「え!?そう・・・なのか?」
「え、奥、何か知っているのか?」
「細工か知らないけど、この前林に合ったときに、”車のバンパーに付いた赤色の染みが、どうやっても消えない”とはなしていたからな。”いたずらされているみたいだ”と話していたぞ」
「あぁその話なら俺も聞いたよ。塗り直しても翌日になるとまた同じ場所が赤くなるってな」
「事故起こすような細工には見えなかったからな」
「でも、もう退院するんだよな?」
「来週だって言っていたな、俺が迎えに行くことにしているんだよ。ほら、あいつあれだろ?」
「あぁまだ彼女の事で両親と揉めているのか?」
「そうみたいだよ。そりゃぁ両親としては...なぁ他の男の子供を産んだって言っている女を嫁には出来ないだろうからな」
「うん。林も解るけど、彼女に隠し通すつもりなんだろう?それでいいのか?」
「でも、ほれあいつ高校の時にも...な」
「それもわかるけどな」
「まぁ奥も一緒に向かいに行こうや、1年前見たいに、海見に行こう。男三人でって言うのはつまらないけどね。」
「そうだなぁ林の退院祝いに久しぶりに行くか...」
「よし、決まりだな。俺は、林を迎えに病院に行って、ここまで来るから、奥は、ここで待っていてくれ。」
「あぁ解ったよ。時間は?」
「林に聞いておくよ。退院時間の関係もあるからな、解ったら連絡するよ。」
「頼むよ。それじゃぁ今日は、俺バイトがあるからな」
「なんだ、まだ辞めてなかったのか?」
「そりゃぁなぁ生活が苦しいからな」

 そういって、奥と俺は別れた。一週間後の再開を約束して、俺はそのままバイト先であるレンタルビデオ店に向かった。
 最近、俺のバイト先ではちょっと変わった事が起きている、バイトの更衣室に、古い映画の金田一シリーズのなんだかと同じ様に印が付いているらしい、俺はその古い映画を見ていないから解らないが、映画好きの店長が言っているから間違い無いだろう。
 まぁ誰かのいたずらだろうけど、俺には被害はないし、直接関係ないだろうから気にしないことにしている。バイトだし危害がありそうなら辞めてしまえばいいと思っている。学校を卒業するまでの生活費稼ぎだし、別にここでなくてもいいと思っている。

「き!キャァァァ!!」

 今日のシフトで入っている女の子の悲鳴だ。

「どうした?」
 俺は、近くに居た別のバイトに声を掛けた。

「・・・」
 ふるえて声にならない。俺は、そのバイトを押しのけて、悲鳴がした方に目を向けた。そこには信じられない光景が広がっていた、”ぬいぐるみが、血を吹き出している”のだ!
 それも、二体のぬいぐるみが....ひとつは完全に潰れて原型を残さない様な状態になっていて、もう一つは左腕を切断さて、そして、左目だと思われ場所から大量の血が流れている。
 俺は、今までいろんな事をしてきたし人を傷つける事も沢山してきた。

 でもこんな薄気味の悪いぬいぐるみを見たことない。
 そして、ぬいぐるみは、どこから出しているのかわからない血が、今でも吹き出している。
 ぬいぐるみが俺を見たような感覚になる。そして、流れ出た血が、血が意志でも有るかのように、俺に近づいてくる。

「どうした!」
 そう店長の声で、意識が戻ってきたのが自分でも解った。

「店長。警察に届けますか?」
 俺は店長にそう聞いた。

「必要ないだろう。いたずらに警察を呼べるか?」

「店長...でも、俺の友達に林って交通かの警察官が居ます。そいつに相談してみましょうか?」
「いいよ。たんなるいたずらだろう。相手にすればつけあがるからな、何も無かったかのように振る舞えばいい」

「そうだ、木村お前片付けをしておけ」
「え?!解りました」
 店長は、俺にそういって店に戻っていった。女の子はまだ錯乱していて、話を聞けなかったが、とりあえず落ち着かせる意味もあるので、別室に連れて行った。
 店もこの時間は混むから早めに片付けて、店に戻らないとまた店長に文句を言われる。
 そう思って、ぬいぐるみに目をやると、当然の事だが、血が止まっていた。
 その変わり目線は俺を捉えている、まるで、俺を捜しに来たかのように思えるくらいだ。
 血を吹こうっと流しに向かうときに、何か解らない物に後ろに引っ張られる感覚にとらわれて、後ろを振り向いた。

「え?!」「・・・・」「・・・・・」「・・・・・・・」「なんで?え?」
 俺は自分の目を疑った、その状況に、現実を受け入れる事を脳が拒否しているかのように、状況の確認が出来ないで居た。

「ぉ木村。仕事早いなもうぬいぐるみ片付けたのか?床は明日掃除はいるから滑らないようにしておけばいいからな」

 そう、ぬいぐるみが”いなく”なっているのだ。
 俺は片付けていないし、一瞬後ろを振り向いただけで、俺は”何も”していない。
 でも確かに、そこに存在していたであろう物が存在していないのだ。

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 木村の奴大丈夫かなぁあいつ彼女の事をまだ気にしているからな。
 自分が一緒に居ればあんな事にならなかったと・・・。
 彼女の両親にまで頭下げに言ったって話だからな。本人達は、木村が無事だった事を喜んでいるし、彼女も事故だったと思う事にしているんだし、蒸し返さなければ良いんだろうけど、自分が許せないんだろうな。

 まぁ俺が間に入れば問題ないだろうな。
 俺は、そんな事を考えながら、木村を見送った。
 来週か、仕事の納期も過ぎているし、一日休むのは問題ないだろう。

 それに久しぶりに男だけで遊ぶのも悪くない、林の彼女の事や木村のこともあって、三人で遊ぶ事も無かったからな。林には悪いけど、これがきっかけになればいいと思う。
 そんな事を思いながら、自分の会社に戻った。納期を終えたばかりで、皆帰っているが、残務作業が残っているし、来週休みを貰う為にも、やれる事は、全部やっておこうと思う。
 それに...部屋に帰っても、あいつが居ない事の方が辛い。
 木村の事も、林の彼女の事も、そして今の俺の現状も・・・。
 受け入れがたい事だが、やっぱり俺の軽率な行動が、今の結果を生んでいるとしか思えない。

 首筋をひんやりした感触の物が通った。何かに見られている。

 最近、何かから”見られている”と、感じる事が多い。それも何か解らない恐怖も感じる。

 今もその感じが首筋にある。安心を得る為に、首筋に手をやった.何も触る事がない。いつものように勘違いだと思うことにした。

「あぁやっぱりな勘違いだな」
 俺は安心を確信する為に声に出して確認した。
 その瞬間、指に何か触る感触がある。そう、雨でも指に当たったのかと思う様な感触がである。

しかし、指先から手の甲にその雨粒が徐々に移動している、手に付いた雨粒は少し粘着がある。
 .雨だと思い早くその場を離れる。

 そう頭が足に命令しても、足はその場に根でもはっているかのように、一歩を踏み出す事ができない。
 自分でもわからないが、雨に濡れた手を直視するのを拒んでいる。
 指は動く、目も動く、しかし、足も腕も動かない。

 そう左腕だけが動かない。右側に伸ばした左腕が動かないのだ、自分でも理解できない。
 右腕には雨粒を感じない、もちろん頭にも感じる事が出来ないが、左腕だけは雨粒を確認している。

 雨が降っているのだと、心が頭に言い聞かせて、理解させようとしている。

 雨で無いことは、もう頭では理解している。認めたくないのだ。

 右腕で、左腕を手の甲を触ったが濡れている感触がない。
 俺は、そのまま右腕で左腕を確認するように、手を這わせた。
 左腕に、触られていると言う感覚がない。

 そう腕が無くなっているように感じる。
 でも、右手には確かに左腕が存在している感触がある。

 やがて、右手が、有るはずの左肩に来た。肩に触れる右手には違和感がある。右手は確かに左腕が触っている。

 しかし、左肩には左腕が付いていた。そこには、あるはずの左腕の感触がない。
「ぅぅぅぅうぉきゅぅぎゃぁぉぅぇ」
 そう、腕が無くなっている。
 左目の視野も無くなっている。右手には、流れ出る雨の感触だけが伝わってくる...。「そうこれは夢なのだ」「そう俺は今夢を見て居るんだ」

「奥村。奥村。奥村。」
「....ん」
「奥村。あぁよかったぁ連絡が来たときにはびっくりしたぞ」
「ん。木村どうした?」
「どうしたじゃぁないだろう、お前がマンションの前で倒れて病院に運ばれたって聞いたから、俺バイト抜け出してきたんじゃないか?」
「俺、倒れたのか?」
「なんだ覚えてないのか?」
「あぁなんか、左腕が無くなる夢を見て居たのは覚えているけど、夢だからな」

「・・・・」
「木村。悪い冗談は辞めろよ。ほら、有るじゃないか」
 そういって、奥村は左腕を前に出した。

「・・・・」
「・・・木村、これ何だ?」
「奥、その事で刑事さんがお前に聞きたい事があるんだと、それで俺もその刑事に呼び出されたんだ」
「・・・俺は知らないぞ、何も知らないし、何もしていない。俺じゃない」
「解っている。解っている。俺はお前がそんな事出来ない事は知っている」
「でもなんだ、でも、なんだ木村、言いたい事が有るならはっきり言え!」
「・・・・」
 二人の男が入ってきた。

「奥村さん少し落ち着いてください。」
「・・・誰です」
「あぁ失礼、南署の高橋です」「小和瀬です」
 そう言って二人の男は名乗った。

「ちょっとその左手に握られている物についてお聞かせ願えればと思いましてね」
 そう、奥村の左手には刃渡り15cmほどのナイフが握られていた、握られていただけではなく、左腕の肩から手に掛けて真っ赤な血が付着していた。

「見たところ、自分の左腕には傷や怪我がありませんよね。先ほど医師立ち会いで確認させていただきました。そうなると、その血は誰の物でどこで付けられたのかが凄く気になります。お友達の・・・」
「木村です」
「そうそう、木村さんにも来ていただいて、あぁ奥村さんの携帯の発着履歴で、木村さんの名前がありまして、お電話差し上げたら、近くでバイトしていて、さっきまで奥村さんに合っていたって事でしたので、お忙しいとは思いましたが来ていただいて先ほどまで事情を聞いていました」
「・・・」「・・・」

「さて、奥村さん。木村さんのお話ですし、お二人で林と言う友人、あぁ林は南署の”交通課だった”林の事らしいですね。林の事を話していて、西口公園で別れたって事ですが、間違いないですか?」
「えぇ間違いないです。そこから、家に向かって」
「そうですね。奥村さんのお部屋は倒れられていた場所とはかなり離れていますけど、どちらにお行きになる予定だったのでしょうか?」
「え?蒲田にある自分の部屋ですよ」
「えぇそうですね。でも奥村さんが倒れられていた場所は、一年前に転落死があった公園近くのマンションの前ですよ」
「え?俺・・・僕は、確かに部屋に向かう為に、え!?」
「そうです。奥村さん貴方が倒れられていたのは、一年前に当時貴方の恋人だった小沢桂子さんが発見された場所です」
「・・・・。」「・・・・。奥、お前..なんで?」
「知らない。俺は行っていない、桂子の事は、忘れたい・・・俺じゃ・・・」
「しかしですね。事実貴方は、小沢さんが見つかったマンションの前で倒れていたのですよ、左手にそのナイフを握りしめてね」
「・・・・」
「何か思い出されましたか?」
「・・・」
「それに、そのナイフ、どこで買われたのですか?」
「・・・・」「・・・・」

「おや、お二人とも何か見覚えがある見たいですね。今日は、遅いですし、奥村さんも木村さんも混乱している様ですので、明日ゆっくりお話を伺います」
「・・・」
「あの?」
「何ですか、木村さん」
「いや、なんでも無いです」
「何か思い当たる事があるなら、早めに行っていただけるとこちらも調べる手間が省けて助かります」
「いや、本当になんでもないです」
「そうですか、わかりました。何か思い出されたら早めに言ってくださると助かります。調べれば解ることですからね。あぁそうそう、お二人には、明日お持ちの靴を調べさせていただくかも知れません。小沢桂子さんの転落死があった現場に、不明の靴後がいくつか見つかっていますし、それから屋上の手すりにナイフの様な物で付けられた傷もありますからね。その辺りの事を含めてお話が聞ければと思っています」
「・・・」「・・・」

「あ、それから、お友達の林ですが、本日付で退官しています。理由は一身上の都合と聞いています。多分明日は、林さんを交えてお話を聞かなければならないですね。三つの足跡についても聞かなければならないでしょうね」

 それだけ言い残して、高橋と小和瀬と名乗った二人の刑事は部屋を出て行った。
 そして、夜の廊下を歩く音が木霊の様に聞こえてきた。こつこつと遠ざかる足音が何かを遠ざけたがっている二人の気持ちを代弁する様に・・・。


 そして、そこには沈黙だけが残った。医者も看護師も次の患者を迎え入れる為に準備を始めていた、二人は一枚の戸を隔てた待合室の椅子に座っている。ナイフを握りしめていた腕は鈍く重くなっている。それ以上に二人の間には重く苦しい空気が流れている。
「奥、そのナイフ....捨てなかったのか?」
「捨てたよ、公園で捨てたのをお前も見ているだろう?」
「あぁ見ていたよ」
 二人は一変に入ってきた情報で混乱している。

「足跡って言っていたよな?」
「あぁ言っていたな」
「”水を巻いて”消したよな」
「あぁ」
「埃の上に付いた足跡だから、水で流せば全部消えるって言っていたよな?」
「あぁ確かに消えていたし、それ以外の痕跡も全部消したし、ここ一年何もなかったよな?」
「・・・・」「・・・・」
「・・・あれは事故だ!」
「奥村。奥村。解っている、解っている。だから何も言うな」
「ナイフも石も全部捨てたんだから...それに、石は煮沸して...血を洗い流したはずだし...解らないようにもした!」
 きぃ~ドアが開く音がした。そこには先ほどの刑事が二人立っていた。

「おかしいなぁ。何度出口に向かっても、ドアを開けるとまたここの扉の前に戻ってきてしまうんですよね。まぁそのおかげで面白いお話を聞けました。もう少し詳しくお聞きしたいので、署までご同行いただけないでしょうか?」
「・・・・」「・・・・」
 二人はうなずくしか無かった。

 一週間後、二人の元に凶報が届いた。
 林が死んだと言う知らせが届いたのだ。
 林は、夜病院から、見張りをしていた警官二人を振り切って逃亡した。
 病院の中庭に行き、近くにあった石で自分の顔を何度も何度も殴りつけて居たようだ。

 直接の死因は、大きな石が上から落ちてきて林の頭を潰した事だ。

 二人の警官が駆けつけた時には、既に林は死亡していた。

 三人とも自分達のした事を認め話している。
 三人は、奥村の当時の彼女であった、小沢桂子を自殺に見せかけてビルの屋上から突き落としたのだ、原因はいくつかあるようだが、大きいのは、小沢桂子が妊娠し、子供を産むといい出したことにあるようだ。

 そして、奥村が中絶を迫ってた。二人は言い争いから、奥村が、近くにあった石で小沢桂子の頭を殴ってしまった。
 そして、死なせてしまったのだ。それを隠蔽する為に、林に連絡をした。林は、林で奥村からの申し出を断る事が出来なかった。林は結婚を決めている女性を二度犯しているのだ、それも自分だと言わないまま。
 その事を、奥村も木村も知っている。高校の時に、当時の彼女を犯したのは木村と林、そうして二年前に犯したのは林なのだ、その事を知っているのは、三人だけの秘密になっている。林の彼女が産んだ子供は犯された時に出来た子供だが、その子供は事実林の子供だと言う事になる。
 その事実を、今回の奥村の事で白日の下に晒された。

 それが解っているかのように、病院に入院した日に、林は辞職願を提出している。

 そして、残された二人は全てを話て、罪を認めた。

 ただ解らない事がある。
 確かに、あのナイフは捨てたし、ビルの屋上には足跡が残っていない事も確認した。
 血の付いた石が現場に有るはずがないし、石は解らないように工作して捨てたのも確かな事だし、今回の林の自殺も遺書も無ければ何も無い。不可解な事ばかりが残る。そして一番の謎は、血まみれになっていた奥村の腕に付着していた血が人間の物では無かった。

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 そして、三日後。奥村が、自分で左腕をドアに何度も何度も挟んで、左腕の組織がめちゃくちゃになるまで挟んだようで、その状態で死亡しているのが見つかった。
 残された、木村は何かを悟ったように・・・つぶやいた。

「そうかぁお前が全部やったんだな。ゴメンな。ゴメンな。許されない事だと解っているけど・・・もう許してくれ、お前達の事を忘れていたよ。本当にゴメン」

 そういって、刑事が持っていたボールペンを奪って、自分の左目に突き刺した。
「俺がやったのはこれだったよな。これで許してくれとは言わないけど・・・もう勘弁してくれないか?罪を償ったら、お前達への罪を償いに行くからな。本当にゴメンよ」
 慌てた刑事が、ボールペンを取り上げたがその時には、既に木村の左目は二度と光を見ることが出来ないであろう状態になっていた。

「ゴメンよ」
 そう木村は、呟くと気を失ってしまった。









「みーちゃん。みーちゃん。どこにいるの?」
「あっママ」
「どうしたの?お手々泥だらけになって!!」
「うん。にゃんにゃんがね。冷たくなっていたの?」
「え?にゃんにゃんが?」
「うん。ほら、いつもみーとママの方を見ていた、三本足のにゃんにゃんだよ」
「あ!それで、みーちゃんはどうしたの?」
「そのにゃんにゃんと約束していた事があったから、その約束を守ってきたの!」
「え?にゃんにゃんと何を約束したの?」
「う~ん。もう大丈夫かなぁ??」
「うん。怒らないから教えてね」
「うん。あのね。ママが、一年くらい前にこの近くの公園で冷たくなっていたにゃんにゃんを埋めてお墓作ってくれたでしょ。あそこの隣に埋めて欲しいって言われていたの」
「・・・え。だって、みーちゃん知らないでしょ...そんな事?」
「うん。でも、そのにゃんにゃんが言っていたよ。ママは優しい人で、他の人が見ぬふりしていたにゃんにゃんをしっかり弔ってくれたんだって。そして、時々お祈りをしてくれていたんだよってね」
「・・・。それ誰に聞いたの?」
「だから、三本足のにゃんにゃんだよ」
 ・・・・・。もしかして、この子の病気が奇跡的に治ったのは...そうなの?

「ねぇみーちゃん。ママと一緒にそのにゃんにゃんを埋めた所に連れて行って」
「いいよ。きっとにゃんにゃんも喜ぶと思うよ!」
 そう確かに”ここ”は、一年前に私が、頭を潰されて死んでいた猫を埋めた公園の花壇だ。
 そして、思い出したときに手を合わせたり、花壇に花を埋めたりしていたが、3ヶ月前まで病院のベッドにいた娘が知るはずもない事だ。

「ここなのね?みーちゃん。二人で、にゃんにゃんに名前付けてあげましょう。二匹が天国でも一緒に入られるようにね。みーちゃんが名前付けてあげて、そして呼んであげようね」
「うん。じゃぁ『ハナ』と『ケン』」
「そう。それじゃ、みーちゃん。二人で名前を呼んであげようね」

「うん。いっせいの」
『ハナ』『ケン』
「(ありがとう。娘を救ってくれて...)」

「(にゃ~)」「(にゃ~)」

「(お礼を言うのは私の方だよ。本当に、ありがとう。安らかに眠ってね!)(名前気に入ってくれた?娘をありがとう。お礼が遅くなってごめんなさい)」

 もう、ハナもケンも答えなかった。

fin

感じた重さ

感じた重さ

僕のすべてだった・・・それを奪った奴らを許すことなぞできるわけがない。 僕は、あいつらを見つけ出して復讐すると誓った。 でも、僕には力がない。 僕を・・・違うな、僕のすべてだった・・・彼女を大切にしてくれた人がいる。 僕は願った。僕のすべてを・・・。 僕は、今日彼女の所に行く、最後にあの人に会えたら良かったのだけど、叶わないのだろう・・・。 でも、いい・・・あの人が幸せそうにしているのを何度か見かけた。僕は、それだけで満足だ。 あいつらも・・・。

  • 小説
  • 短編
  • ホラー
  • 青年向け
更新日
登録日
2020-04-23

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著作権法内での利用のみを許可します。

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