海上都市

「潮の降る町」の序章部分として書いたパートですが、全体の再編成に伴いカットすることになったため、このまま独立した作品として残します。また手を入れる可能性もあります。

 彼女を乗せたバスは午後九時ちょうどに、終点の旅客船ターミナル前へと到着した。島へ帰る最終の船、その出航時刻のぎりぎり五分前だった。
 ドアが開くなり、乗客たちは慌ただしくバスを降りて桟橋へと向かった。もちろん、全員の乗り換えが終わるまでは、船は出ない。みんなそれは分かっているのだが、つい急ぎ足になってしまうのだ。もしも、万一この船に乗り遅れてしまったら、明日の朝まで次の便はない。彼女もまた同様に、桟橋を乗船口へと急いだ。
 老人や子供連れもいる乗船客が全て乗換えを完了するには時間がかかり、出航は結局予定時刻の七分遅れになった。定員百名と比較的小ぶりな旅客船は、浜津の町との別れを惜しむかの如くゆっくりと桟橋を離れ、それから沖合に向かって徐々に速力を上げ始めた。もう明日の朝まで、この船がここに戻ってくることはない。

 船が去ったのを見届けるかのようなタイミングで、桟橋に並ぶ灯りが沖側の端から順番に消えて行き、最後にターミナルビルのネオンが落ちた。ターミナル前に佇むバスの、黄色いウインカーの点滅だけが、港の位置を示していた。乗船客のほぼ最後に船に乗り込んだ彼女は、後部のデッキでその様子を眺めながら、今日もちゃんと間に合ったなと安堵のため息をついた。
 間接照明で落ち着いた雰囲気の二階客室内は人もまばらで、座席は座り放題だった。島までは三十分はかかる。少し眠ろうかと、騒がしい野球中継を映しているテレビから離れた席へ向かって歩き出した彼女の背中に、誰かが声を掛けた。
「郁代!」
 思わず振り返ると、Tシャツ姿の佐山理奈が大きく手を振っているのが目に入った。島から同じ大学に通っている数少ない友人で、朝は時々一緒に登校しているのだが、帰りの船が同じになるのは珍しかった。
「相変わらず、帰るの遅いじゃない。今日もバイト?」
 理奈は、屈託のない笑顔を浮かべて言った。顔がいくらか赤らんでいるようだ。
「うん、バイトの帰り。理奈は飲み会だったっけ、今日は?」
 郁代はそう言って、理奈の隣に腰掛けた。ソファーのようなふわふわの座席に、体が沈み込む。
「そうだよう。法律学科の男の子達と合コンさ」
「楽しかったみたいね」
「うーん、微妙ねえ。盛り上がったことは盛り上がったんだけど、何かちょっと距離があるって言うか。やっぱり真面目な奴ばっかりなんだよね、うちの学校の男どもは。勉強ばっかしてきたからああなるんだ。ま、一応メルアドだけはゲットして来たけど」
 ひとしきりぼやいた後、理奈は郁代をにらみつけた。
「あんただってそうよ、真面目すぎるんだから。大体、わざわざバイトなんてする必要ないじゃない。何て言ったって、あんたは炭鉱長のお嬢さんで……」
「もう、理奈ったら飲みすぎじゃないの。わたしに絡むのやめてよ」
「誰が酔っ払いだって?」
 理奈はぷはーっとばかりに、郁代に息を吹きかける。
「うわ、酒臭いよ」
 彼女は思わず、苦笑いを浮かべて体を反らした。
 船の緩やかな揺れ具合の心地よさが眠気を誘ったのか、やがて理奈は郁代の体にもたれかかるようにして眠ってしまった。逆に寝ることができなくなってしまった郁代は、仕方なく窓の外を眺める。真っ暗な海の向こうにわずかに見えるのは、あちこちに点在する小島の集落の灯りだけだった。
 ガラスに映る自分の横顔に、幼いときに見た母親の顔を思い出して、郁代はふと懐かしいような気持ちになった。自分の肩で寝息を立てているショートヘアの理奈が、まるで子供のようにも思えて来る。
 テレビの野球中継が終わり、ニュース番組が始まった。東北地方での水害の映像や、十二党連立政権の支持率急落についての解説をぼんやりと眺めていた彼女だったが、アナウンサーが三つ目のニュースを読み上げ始めた途端、その表情が硬くなった。炭鉱業大手の北洋炭鉱が事実上倒産したのだという。
 十数前の坑内爆発事故以来、徹底した経営合理化を行い、安価な輸入炭との競争を続けてきた北洋炭鉱だったが、政府の援助が打ち切られたこともあって、ついに閉山せざるを得なくなったのだった。地域経済に深刻な影響が出ることになるため、緊急の対策を行うことを検討しているという知事の声明を、アナウンサーは神妙な顔で読み上げた。
 いよいよ次は、と郁代は思った。私たちの島の番かもしれない。もしそうなれば、あの場所に住む人々の生活は一体どうなってしまうのだろうか。
 今この船が向かおうとしている先、彼女が住む青松島は、二十世紀も終わりに近いこの現代において日本最大の海底炭鉱の拠点として知られていた。島の経済はそのほぼ百パーセントを炭鉱に、つまり炭鉱長である彼女の父の会社の収益に依存している。もしその炭鉱が閉山するようなことがあれば、島の暮らしはたちまちのうちに全面崩壊することになるはずだった。

 立ち込めてくる暗澹たる想いを振り払おうと、もたれかかった理奈の体を慎重に押しのけて、彼女は席を立った。通路を、今度は船の前部デッキへと向かう。そこからは、もうかなり近づいて来ているだろう島の全景が見えるはずだった。
 ドアを開いて外に出ると、潮の香りがする風が、彼女の長い髪をくしゃくしゃに乱した。船の進む前方には、暗い海。そしてその向こうに、島の姿があった。
 いくつもの高層ビルが、海の上に寄り集まって建っている。その数は二十を下らないだろう。無数の窓には煌々と灯りが点り、海面を照らし出していた。まるでどこかの都会を一部切り取ってきてそのまま海の上に浮かべたような島。それが彼女の島だった。青松島とは皮肉な名前だ。遠い昔はその名の通り、岩山の上に松の木が青々と繁る風景が見られたのだろう。しかし今や島の本来の地面は、全て建物に覆いつくされ、松などどこにも見当たらない。
 まさに海上都市とでも呼ぶべきそのビル群のほとんどを、集合住宅の建物が占めていた。そこには炭鉱関係者を中心に七千の人間が暮らす。人口密度は東京二十三区の十倍、島を一つの町と考えれば世界一の密度を誇っていた。
 この暮らしが、全て消え去ってしまう。そんなことが本当に起こり得るのだろうか。彼女は信じられない気持ちで、海の真ん中に幻のように浮かぶ街の夜景を見つめた。

「ほら、理奈起きなよ。もう着くよ」
 間もなく船内に戻った郁代は、理奈を揺すぶり起こした。
「うーん、あと五分だけ」
 理奈は目を閉じたまま無邪気な笑顔を浮かべて、座席のふかふかの背もたれにほおを押し付けて見せる。
「家で寝てるんじゃないんだから」
 笑いながら、郁代は複雑な気分になる。理奈はさっきのニュースを見ていない。いや、見ていたとしても何とも思わなかったかも知れない。島の人達は、「大鍋炭」――鍋島炭鉱株式会社の安泰を信じていた。他の炭鉱が閉山になっても、ここだけは違う。世界一の品質を誇る無煙炭を産出し、対岸には大規模製鉄所群や火力発電所が立地する人口七十万の一大工業都市、浜津市という大消費地がある。何より、鍋炭のバックについているのは帝国・鍋島の二大財閥をルーツとする日本最大の企業集団である、帝国鍋島グループだ。閉山など、考えられない――。
 しかし郁代は、父から断片的に聞く話によって、実態がそんなに甘いものではないことに気づいていた。倒産した北洋炭鉱だって、元々は住菱財閥系の名門企業だったのだ。

 城壁のように堅牢な護岸に囲まれた島には、船を接岸させることができない。そのため、海上に浮桟橋が設置されていて、各種の船はそこに発着することになっていた。浮桟橋に降り立つとその先には可動式の連絡橋が伸びていて、狭くて急なその橋を渡ってようやく、島へと上陸することができる。
 連絡橋を護岸の上へと登って行くと、頭上に折り重なるように建ち並ぶビル群の灯りと、島のシンボルとでも呼ぶべき竪坑櫓(たてこうやぐら)の巨大な鉄塔が目に入ってくる。地下六百メートルまで降りるリフトの昇降を、この櫓が支えているのだ。櫓は広告塔を兼ねていて、「帝国ルームエアコン」という文字のネオンが輝いていた。
 本来、石炭の積み出しが主な目的である港の周辺には炭鉱関連の施設が集まっているため、一般住民は立ち入ることが出来ない。そのため、連絡橋を渡り切った乗客たちは、そこから地下道を通って炭鉱施設エリアの下を潜り抜け、住宅ブロックへと向かうことになる。郁代と理奈も他の人たちと一緒に、アーチ状の天井とコンクリート打ちっぱなしの壁がむしろ「トンネル」と呼ぶほうがふさわしいような地下道を歩いた。ぞろぞろと歩く顔ぶれはいずれもどこかで見かけたことのある人ばかりだ。郁代の顔を見て会釈してくれる人もいて、彼女も丁寧に頭を下げ返して挨拶した。子供の時から身についた習慣だった。
 さすがにこの時間にはシャッターが下りているが、一応この地下道内にはラーメン屋や喫茶店、靴屋などの店舗も幾つかあって、「港通り地下街」というしゃれた名前も付いていた。浜津駅前辺りの本物の地下街とは比べるのも馬鹿馬鹿しいほどの規模だが、それでもこの狭い島の中では貴重な商業地だ。これも、限られた場所を最大限に使うための知恵であった。
「島にもさ、せめてモスバーガーとかミスタードーナツくらいあったらいいのにね。こんなしけた商店街じゃなくてさ」
 ハイヒールの硬質な靴音をトンネルに響かせて歩きながら、理奈が言った。
「無理だよ。ミスドなんて、浜津にだってそんなにお店無いじゃない」
「それにしたってさ、ここなんか子供の時からずーっと同じ店ばっかだよ。いい加減飽きちゃうよ」
「贅沢言わないの。わたしたちなんか、まだ恵まれてるんだよ。毎日浜津市内に行けるんだから」
「だから言ってるんだよ。島にずっと居る子たちからしたら、やってられなくない? これじゃ、みんなここを出て行っちゃうじゃない」
 理奈の言うことにも、一理はあった。実際、最近は高校を出ると、浜津を飛び越して東京や京都の大学に出て行ってしまう子も増えている。しかし郁代には、たかがミスタードーナツ一軒で彼らを引き留められるとも思えなかった。
 地下道内に幾つかある出口の一つの前で、理奈が立ち止まった。アーチ型をした出口の横には、ペンキで「十一」と書かれた白いアクリル板がはめ込まれていて、背後の電球の灯りでぼんやりと光っている。彼女が母親、それに高校生の妹と住む集合住宅は、ここから階段を登った上に建つ十一号棟、通称「事務屋棟」だった。ここには、主に炭鉱管理の事務に従事する、ホワイトカラー寄りの社員が住んでいた。
「それじゃ郁代、また明日ね」
 理奈は案外しっかりとした表情で、手を振った。船で眠ったおかげか、酔いも醒めかけているようだった。
 これなら一人で階段を登らせても大丈夫だろうと、郁代もじゃあねと手を振り返し、再び暗い地下トンネルを歩き出した。

 通路の突き当たりの階段を登ると、地下道はお終いだった。ここからは、島のメインストリートになる。しかしメインストリートとは言っても、両側をビルに挟まれた、細い路地のような通りに過ぎない。日光が差し込むのも、正午に近いわずかな時間の間だけだ。もちろん車は通れないから、島内では屋根つきの三輪バイクが輸送手段の主力となっていた。
 山側に建つビルとビルの間には、上方へと伸びるいくつもの狭い階段があった。岩山の上にビル群が密集して建っている、と言うのがこの島の本来の地形だから、その麓にあるこの通りを外れようとすればどこへ行くにも階段を登ることになるのだ。それが嫌なら、反対側にある海に落ちる外はない。
 その階段の一つ、ひときわ真っ直ぐに街の高みへと続く階段を、彼女は上り始めた。階段沿いには、ビルへの出入り口がいくつも並んでいた。岩山の斜面に重なり合ったビルとビルの関係は複雑だ。下のビルの4階が上のビルの1階とつながり、そのビルの5階がさらに上のビルの2階とつながっている。雨の日でも、そんな迷宮のような建物の中を上へ上へと登って行けば、濡れずに頂上へとたどり着くことも可能なのだ。しかし初めてこの島を訪れた者が、つながり合った建物の中にもし一歩でも入れば、自分が今果てして何号棟の何階にいるのか、たちまちのうちに分からなくなるに違いなかった。島に慣れた郁代であれば、もちろん道を迷うようなことはなかったが、それでも窮屈で歩きにくい建物の中にわざわざ入ろうとはしなかった。ビルの壁面に取り付けられた街灯と、無数の窓から漏れる明りで、足元も暗くはない。
 息切れしてくるのを我慢しながら登り続けるうち、やがて郁代は全てのビルを見下ろす、島の頂上部まで登り切った。階段は終わり、そこにはごく狭い平地があった。頑丈な石塀で囲まれたその平地に、彼女の住む家である炭鉱長社宅は建っている。島に着いてから、ずっと人工物の上を歩き続けてきた彼女の足は、その玄関の前で初めて自然の地面を踏むことになった。
 誰もがビルの一室に住む島において、炭鉱長社宅は唯一の完全な一戸建てだった。神社やお寺でさえもビルの屋上に建てられているというのに、この家だけは地面の上に直接建っている。特権階級と見ないでくれ、と言うほうが無理と言うものだ。郁代はこの社宅に象徴される自分の立場を常に意識しながら、島に来てからの十五年間を生きてきたのだった。

 引き戸をガラガラと開いてただいま、を言うと、住み込みのお手伝いさんである「婆や」が割烹着姿で玄関に出迎えに現れた。
「お帰りなさいませ、郁代お嬢様。遅くまで、お疲れになったでしょう」
「うん、今日は結構大変だったんだ」
 スニーカーの紐を解きながら、郁代はうなずく。
「お客さんも多かったし、ほら、店長。あの店長が無理ばっかり言うのよ。トロピカルフェアの期間だから、ハワイアンハンバーグの注文一人でも多く取って来い、とか。あれはとっても不味いのよ」
「まあ、まあ、それはさぞかし大変だったでしょう。すぐにおでんを温めなおしますからね」
「また、おでんなの。もう夏なのに」
 彼女は吹き出した。
「お父さんたら、ほんとにおでんが好きなんだから」
「『姫路ガード下』でしたか、あのおでんが懐かしいというお話を、今日もまたされましてねえ。何度目でしょうかね、あれをお聞きするのは。それで旦那様はやはりおでんがいいと」
ちょっと困ったように、「婆や」は微笑む。
 
 婆やの名は(きよ)と言い、郁代の母が亡くなった翌年、十三年前からこの家に住み込んでいた。今年で七十五になるはずだ。元々は、島で唯一の宿泊施設である「青松荘」で仲居をしていたのを、郁代の父がお手伝いさんとしてスカウトしてきたのである。郁代にしてみても、元号も昭和から変わったこの時代に「家には婆やが奉公しておりまして」などというのはあまりにも時代がかった話だとは思っていたが、それもやはり「大鍋炭の炭鉱長様」の威光の名残であると言えそうだった。

「やあ、今日も遅かったじゃないかね」
 郁代がただいま、と言いながら居間に入っていくと、飴色のソファーに座った彼女の父、取締役炭鉱長の真田善三博士が振り返った。応接セットの向こうに置かれた大型のブラウン管テレビは、まだあまり普及していないアナログハイビジョンテレビだ。画面に映し出されているのは、博士のお気に入りの番組である「世界遺産紀行」だった。
「おでんがあるから、婆やに温めてもらうといい」
 彼はにこやかにそう言うと、再びテレビに向き直った。
「これは、どこ? すごい町ね」
 父の銀髪越しに画面を見ながら、彼女は訊ねた。砂漠の真ん中に、古びた土色をした無数の高層建築がぎっしりと寄り集まって建っている風景が、映っていた。
「イエメンの『シバーム旧城壁都市』だよ。このビルは全部泥のレンガでできているらしい」
「ちょっとこの島と似てる気がするね」
「砂漠の真ん中と海の中、正反対みたいだけども、隔絶された場所に集まったビル群という点では似ているかもしれないね」
 博士はテレビを見つめたままうなずいた。
「もっとも、あちらの歴史は二千年以上、古代から連綿と続いてきた街だという点が全く違うがね」
「この島の歴史は連綿と続いてはいかないかしら?」
「どうだろうかね」
 博士は軽く首を傾げる。
「ねえ、お父さん。北洋炭鉱のニュースを見たわ。とても不安になったの。この島も、そのうちに駄目になってしまうんじゃないかって。お父さんの炭鉱は、大丈夫なの?」
 博士はしばらく黙り込み、ややあって口を開いた。
「それはなかなか難しい質問なのだよ。もちろんお父さんの会社は、炭鉱を閉山するつもりはない。会社の基幹だからね、閉山は即ち会社の終わりということになってしまう。しかしグループ本社は、恐らく炭鉱業などは危険で時代遅れだと思っていて、手を引きたがっているだろうね。採れる石炭の質の良さも、私の誇りである世界一の保安技術も、本社は興味が無い。そしてうちの会社は、グループ本社の意向に逆らい続けることはできない」
「じゃあ、やっぱりこの島も……」
「もちろん、今すぐにどうこう、と言う話は無い。郁代が心配するようなことはなにもないよ」
 島田博士は再び振り返り、目じりにしわを寄せて微笑みながら、力強くうなずいた。
「さあ、晩御飯を食べておいで。今日の婆やのおでんは、絶品だよ。あれなら姫路のガード下にも負けないな」

 遅い夕食を終えた彼女は、自分の部屋へと戻った。ドアを開いて、照明の消えたままの室内に入ると、正面の窓から島の夜景を見下ろすことが出来た。夜景とは言っても、急な斜面にあまりにも建物が密集しているために、眼下に街の灯が広がって――という風にはならない。足元にごちゃごちゃとビル群の明るい窓が折り重なり、そのすぐ先はもう暗い海という感じで、窓から思い切りジャンプしたら、街を越えて水面に飛び込めそうな気がするほどだ。
 そしてその海のずっと向こう、ほとんど水平線近くに並んで見える光点の列、あれが浜津市の市街地だった。あの町の灯が消え去ってしまようなことは、まずあり得ないだろう。それに比べて、この島の地盤の何と脆弱であることか。
 でも、今わたしが色々と思い悩んだところで、それが何になるだろう。とにかく今は、わたしにできる精一杯のことを続けていくしかないのだ。
 そう思いながら彼女は、彼方で眠りにつこうとしている都会、明日もそこで過ごすことになるはずのその町の灯りが、かすかに揺らめくのを見つめていた。

海上都市

海上都市

「潮の降る町」の序章部分として書いたパートですが、全体の再編成に伴いカットすることになったため、このまま独立した作品として残します。また手を入れる可能性もあります。

  • 小説
  • 短編
  • ファンタジー
  • 青春
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2020-04-18

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